ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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均衡とジンクスを破る

○5-0阪神(1回戦)

 投手戦と言ったら聞こえはいいが、実質的には“貧打戦”の方がしっくり来る。

 ここぞの場面ではものの見事に併殺に倒れ、バントはことごとく失敗。お互いよくもまあ、毎回のようにランナーを出しながら無得点で終わるものだと、呆れを通り越して感心しながら見ていたわけだ。あまりにも静的な展開。うっかりお通夜の中継にでも回しちゃったかな、と番組表を見直しても、やはりナイターで間違いない。

 目下セ・リーグ下位2球団による想像を絶する貧打戦にクラクラしながらも、この手の試合は油断していると突然動き出すから迂闊に風呂も入れない。とりあえずこのイニングだけ見たら重い腰を上げようと決めた6回裏、ついに均衡が破れた。

 四球で出塁の平田良介を二塁に置いて2死から阿部寿樹が先制のタイムリー。フルカウントからスライダーをうまく逆方向へ運ぶ、マスターらしい流し打ちだ。こうなると堰を切ったように点が入るのが野球のおもしろいところで、7回裏には不振を極めていたアルモンテの今季1号となる満塁弾で勝負あり。

 このあとベンチに戻ったアルモンテの嬉しそうな表情と、それを労う柳裕也の満面の笑みを見れば、誰もお通夜などとは思うまい。ただ、今日はアルモンテより阿部だ。相変わらずの勝負強さ。どうやらマスターには2年目のジンクスも関係なさそうだ。

 

2年目のジンクスなどと言っている余裕もない

 

 今となっては遠い過去のようだが、阿部はキャンプ、オープン戦を通して暗いトンネルをさまよっていた。さらなる進化を目指して、秋季キャンプから取り組み始めた長打力向上トレーニングがいまひとつ馴染まなかったのだ。キャンプ第4クールでは「絶不調」と打ち明け、昨季までの打撃フォームに戻した。

 あまりによくない打席が続くものだから、“2年目のジンクス”を不安がる声も聞こえてきたほどだ。一般的に新人選手の2年目に対して使われる言葉だが、阿部のようにブレーク翌年を指す場合もある。昨季は活躍したと言っても、5年目にして初めて規定打席に到達したばかり。バリバリのレギュラーとはまだ言えず、きっかけ一つで陥落してもまったくおかしくない立場だ。

 ただでさえ回り道の大卒社会人ルートを経て、早くも“奪う”より“奪われる”年齢になってしまった。今後もイキのいい二塁手の若手が出てくるたびに、阿部は挑戦を受け続けることになるだろう。

 女子アナが三十路を境にしてメインの座を局イチオシのアイドルアナに奪われるように、監督だって同じくらいの力量なら若い選手を使いたがるもの。阿部には2年目のジンクスなどと言っている余裕もなく、ひたすら結果を残して死守するしか道はないわけだ。

 で、その阿部の最大の魅力といえば勝負強さだ。昨季8月のある試合のこと、勝負どころの満塁機で決勝打を放った阿部について試合後、与田監督はこう褒め称えた。「打つと思って、安心して見ていた」と。

 得点力に課題のあるチームにおいて、信頼できるポイントゲッターの存在はこれ以上なく貴重だ。今のように上位打線が冷え込んでいるときは尚更。アルモンテ、ビシエドが打ち取られ、またしても無得点かとうつむきかけた直後の殊勲打。そうだよ、これがあるからマスターは外せない。

 でもごめん。正直打つと思ってなくて、ビシエドが三振した瞬間に風呂入ったから肝心なとこ見てないんだ。マスター、明日は見てる時によろしく。