ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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完璧主義の落とし穴

●3-10広島(3回戦)

 仕事をしているうえで、一番付き合いづらいのが完璧主義の上司や得意先だ。この手の人間は、妥協とか譲歩を頑なに許そうとしない。経理関係で1円でもズレが発生したらその原因を何時間かけてでも追及するし、会議資料に1カ所でも不備があればどんなに些細なことでも訂正を求めてくる。

 そのたびに私のようなズボラな人間は「1円くらい自分の財布から出しときゃええやんけ」と面倒くさがり、「資料の細かいミスなんかどうせ誰も見てないんだからどうでもええわい」とぶつくさ言いながら指示に従うわけである。

 もちろん社会人としては彼らのスタンスが正解なのだが、一方で生きづらさを感じないものかと疑問に思うこともある。あのマハトマ・ガンジーでさえ「私たちのような未完成な人間に、何もかも完璧にこなせるわけがない。私たちにできるのは、その時その時の妥協点を探ることである」(『ガンディー魂の言葉』(太田出版))という格言を残しているくらいだ。

 ましてや完璧を求めるあまり、綻びが生じたときに動揺して自分自身を見失うようでは本末転倒。そうやって完璧主義者ならではの落とし穴に陥ってしまったのが、今日の梅津晃大だった。

 

余裕のなさがありありと伝わってきた

 

 梅津は動揺を隠す素振りもなく、うつむき、帽子を目深に被り、そして天を仰いだ。5回10安打7失点。プロ入り初となるKOは、投球内容だけではなくその態度にも大きな課題を残した。

 2回、田中浩輔に先制のタイムリーを浴びると、梅津の投球は集中力が途切れたかのように、明らかに雑になった。2死から2点目、さらにランナーをためてまたタイムリーを打たれ、この回4失点。いずれも甘く入ったスライダーを痛打されたものだ。初回に各打者の反応からストレートが狙われていることを察知したバッテリーは変化球主体の投球にシフトしたが、高めに浮いた変化球を打ち損じてくれるほどプロは甘くない。

 通算8度目の先発登板で初めて4失点以上を喫した梅津は試合後「自分の悪いところが全部出てしまいました」(スポニチアネックス)と反省を口にしたそうだが、どんな投手でも悪いときはこんなものだ。むしろ気になったのは、自分の不甲斐なさをもろに表に出した態度の方だった。

 上述した天を仰ぐようなポーズもそうだが、今日の梅津はとにかく余裕のなさが画面越しにもありありと伝わってきた。したたる汗、うつろな目、青ざめた頬。つい1週間前、神宮球場で支配的な投球をみせたのと同じ投手とは思えない変わりっぷりだ。ナメられた方が喰われる仁義なき戦場において、こんな風に切羽つまった姿を見せた時点で万事休す。

 その後も修正どころかドツボにはまる一方の梅津は失点を重ね、連敗を止めたばかりのチームを再び暗闇の中に沈めてしまった。

 

完璧主義の落とし穴

 

 梅津の動揺がもっとも極端に表れたのが、3回裏の送りバントの場面だ。無死一、二塁。まだ序盤とあって4点ビハインドもこの回の反撃次第ではどうにでもなるという局面で、初球の高め真っ直ぐの球威に押されてあっさりとキャッチャーファウルフライに倒れたのだ。うつむきながらベンチに戻る先発投手の背中を見て、「まだ行けるぞ!」とは味方も思うまい。得意のバッティングにまで悪影響を及ぼすほど梅津が崩れたのも、“完璧主義”という側面から説明できそうだ。

 先週22日の中日スポーツ。今季初勝利を収めた梅津について書かれたある記事のなかに、こんな一文があった。

 「3月中旬、中日屋内練習場のブルペンには焦る梅津の姿があった。オフに筋肉をつけたせいか、腕を振る感覚がつかめない。受けた赤田ブルペン捕手が『あいつがあんなに完璧主義だなんて思わなかった』と驚くほどピリピリしていた」

 常日頃から投球を受けているブルペン捕手でも驚くほどの完璧主義。よくいえば繊細なのだろうが、時にその性格は妨げにもなる。一つのズレが許せないあまり他の部分にも支障をきたし、やがて全体が崩れてしまう。梅津はまさにこれで、全てが思い通りにいかないとバランスが取れないタイプのようだ。

 だが、当然いつも理想的な投球ができるはずもなく、今後も似たようなケースは幾度となく訪れるはずだ。そのたびに今日のような態度を取っていたら、梅津はいつまで経っても一流にはなれないだろう。打たれたら「キャッチャーのせい」、バントを失敗したら「あんな球投げる投手が悪い」。そのくらいの図太さで、堂々としていて欲しい。

 梅津が本当にエースになれる器なら、繊細さと同量の豪胆さも持ちあわせるべきだ。

 

【参考資料】

中日スポーツ「中日・梅津快投8年ぶり開幕カード勝ち越し呼ぶ「今年のドラゴンズは違うぞというところをしっかり見せたい」