ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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昭和のエースだよ

○3-0ヤクルト(3回戦)

 8年ぶりの開幕カード勝ち越し。つまり連続Bクラスが始まった2013年以降、一度もなかった“快挙”を2年目の与田ドラゴンズは成し遂げたのだ。

 1戦目も今日も圧倒とは程遠い内容。ヤクルトとの差は紙一重だったと思う。一つ間違えれば3連敗だって十分にあり得た。しかし、紙一重の差で勝てるようになった事こそが何よりの進歩だといえよう。

 たとえば東海ラジオで解説を務めた谷繁元信氏も今日のポイントだったと指摘した、1回裏の三振ゲッツー。表の攻撃をイヤな形で終わったドラゴンズにとって、先頭の坂口智隆を歩かせた時点でどうしたって昨日、おとといの悪夢が頭に浮かぶ。だがフルカウントとなって、ランエンドヒットを仕掛けてきたヤクルトに対してバッテリーが選択したのは曲がりの大きなスライダー。これに山田のバットが空を切るやいなや、木下拓哉が勢い余ってマスクがズレるほどの素早さでランナーを刺したのだ。

 一旦悪い流れに呑み込まれれば抜け出せなくなるのが当たり前だった暗黒時代を見てきただけに、流れを再び戻すような好プレーは新鮮に映った。またそれをやったのが、2年目の梅津晃大と去年までは控えに甘んじていた木下のバッテリーというのが実に若々しくていい。昨日、吉見一起ができなかったことを梅津はできた。これもまたドラゴンズが着実に未来に向かって進んでいることの証左であろう。

 

梅津の勝気な性格

 

 それにしても、梅津の積んでいるエンジンはどれだけヘビーな馬力をしているのだろうか。将来のエース候補と目される梅津が、文句なしの好投でもって今季初勝利をあげた。いっぽう今日の登板では、投手としての能力の高さだけではなく人並外れた勝気な性格も垣間見ることができた。

 最大のピンチは3回裏。簡単に2アウトを取ったあと、投手の山田大樹にヒットを許したところからあれよあれよと満塁のピンチを背負い、打席には青木宣親。足がすくみそうなこの場面でも梅津は落ち着いていた。初球から臆することなくストライクゾーンへ投げ込んでわずか2球で追い込むと、4球目に151キロのストレートで詰まらせて窮地を凌いだ。

 これだけでも強気な性格であることが分かるのだが、感心したのは5回裏、再び回ってきた山田大との対戦だ。先ほどと同じく2アウト走者なし。通常、こういう場面では五分程度の力でスタミナの消費を抑えるものだが、梅津は違う。3回にヒットを打たれたのがよほど癪に触ったのだろう。初球から147キロのストレートを外角低めに決めると、2、3球目には1キロずつスピードを上げる渾身の投球。そして決め球は外角に沈むフォーク。まるで強打者を相手にするような配球で、確実にアウトを取りに行ったのだ。

 山田哲人ではなく山田大樹を全力で抑えに行く姿を見て、思わず笑ってしまった。やられたら10倍返しでやりかえす的な半沢直樹スピリッツ。なんだか懐かしいこの感じ、そうだ、やっぱり川上憲伸によく似ているのだ。その直後、今度は打者として梅津はさらに川上を彷彿とさせることになる。

 

まるで昭和のエースだよ

 

 2回にドラゴンズが2点先制して以降、両軍膠着して迎えた6回表。いわゆる「次の1点がどちらに入るかが重要」という局面で、試合を動かしたのは好投を続ける梅津自身だった。

 低めをすくい上げた打球は前進守備を敷いていた外野陣の頭上を超え、フェンス手前まで到達。この二塁打を足がかりにして貴重な追加点が転がり込むのだから分からないものだ。

 投手とはいえ9人目の野手。あまりにも打率が低すぎるのでは攻撃に及ぼす悪影響もゼロとはいえない。かつてのエース川上は、投手とは思えないバッティングで幾度となくチームを救った。2004年にはチーム唯一の得点となる2ランを放ち、投げては完封という離れ技をやってのけたこともある。このとき落合博満監督が「(まるで)昭和のエースだよ」と褒め称えたのは語り草である。

 たとえ令和であっても、打者として自らを助けることができる投手がより多くの勝ち星に恵まれるのは当たり前の話だ。菅野智之に大瀬良大地、今永昇太、西勇輝と各球団のエースはやはり打てる投手揃い。その意味で梅津も“勝てる投手”の資質あり。すなわちエースになる資格を有していると言えそうだ。

 

さよなら、暗黒時代

 

 9回裏2アウト二塁。最後は塩見泰隆の強烈なライナーを、この回から守備固めに入っていた武田健吾がダイビングで好捕してゲームセット。これだって捕ったのはグラブの先。あと10cmズレていれば、打球は後ろに逸れて絶体絶命のピンチになっていただろう。 

 投げても打っても絵になる梅津。紙一重で凌ぎ切る岡田俊哉に、紙一重のプレーで盛り立てるバックーー。8年ぶりの開幕カード勝ち越しは決して偶然ではなく、チーム力向上の結果に他ならない。それは同時に、長く深かった暗黒時代との決別を意味する。
さよなら、暗黒時代!