ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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風前の灯

●2-6ヤクルト(2回戦)

 野球というスポーツはつくづく分からないものだ。何が分からないって、ヤクルトの先発・小川泰弘である。小川は練習試合を通じて炎上を繰り返していた。5月30日の紅白戦で1回1/3を5失点。6月6日の巨人戦は4回5失点。そして開幕前最終登板となった14日の楽天戦でも2回2/3を8安打6失点と打ち込まれ、不安を抱えたまま中5日で今日のマウンドを迎えた。

 だから小川が2戦目に先発すると分かったときには、この日はもらったなと思った。ただでさえ昨季は対戦防御率5.02と打ち込んでおり、対小川だけで4勝を稼ぎ出した、いわばドラゴンズにとってお得意様だ。つまり昨日の死闘を制した時点で開幕2連勝は堅いぞと、高を括っていたわけだ。

 ところが、である。その小川は初回からコーナーを突く強気の投球で簡単に三者凡退に仕留めると、3、4回に1点ずつを失ったものの中盤以降は尻上がりに調子を上げ、要所を抑える投球で6回2失点。お得意様だったはずが、あろうことか今季初勝利を献上する羽目になった。

 それにしても3週続けて炎上した投手が、この大事な試合にしっかり調子を合わせてくるとは恐れ入る。さすがは元最多勝投手。みくびったのが間違いだった。

 

フロントドア、破れたり

 

 一方で、練習試合では満足な結果を残したにもかかわらず肝心の本番で潰れてしまったのが吉見一起だ。三者凡退スタートの小川とは対照的に、こちらはいきなり2ホーマーを被弾する苦しすぎる立ち上がりとなった。ポイントは先頭、坂口智隆との対戦だ。8球粘った末に9球目をライト前へ運ばれたこの対戦、吉見が決め球に使ったのは左打者の内角に食い込むシュート、いわゆる「フロントドア」だった。

 データ解析を参考に編み出した、吉見の今季に懸ける想いを凝縮したような新たな武器。しかし、満を持して使ったこの球があっさり打ち返されたことで、吉見は出鼻を挫かれたような気分になったのだろう。山田哲人、村上宗隆にはファースト・ストライクを狙い打ちにされ、あっという間に3失点。やや立ち直りの兆しが見えたかに思えた3回にも塩見康泰にソロを浴び、吉見の“開幕”は4回4失点という苦い結果に終わった。

 

吉見の野球人生は風前の灯

 

 1敗するたびに弱くなるロウソクの火があるとして、全てが消えたときに引退を余儀なくされるとしたら、吉見のロウソクはせいぜい残り2吹きといったところか。しかも勝ったからといって火が持ち直すわけではなく、ひたすら消えないように粘るしかない。今の吉見の立場は、そのくらい脆くて儚いものだ。

 今日の投球で、火の勢いはもはや消える寸前にまで落ちたといえよう。吉見が開幕2戦目という重要なポジションを任されたのも、経験に基づく熟練の投球への期待があるからこそだ。しかし現実には、自分はまだ大丈夫だと言い張る高齢者ドライバーのような投手になってはいないか。しかも二軍では小笠原慎之介、勝野昌慶といった20代前半の若竜が手ぐすねを引いてその座が空くのを待っている。次の登板でも今日のような投球をみせれば、一気に火が消えたっておかしくはない。

 ただ、ロウソクの火は消える寸前が一番明るいとも言う。もう一度だけでもさすがは吉見、元エースだと感嘆させてくれるような投球を見せて欲しいし、ギリギリではあるがまだ勝てる力は残っているとも思う。

 火はまだかろうじて揺れている。かつての眩ゆさを取り戻すことはなくても、背番号19は必ず最後にまた美しく輝くはずだ。