ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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4時間49分416球の白熱

○9-7ヤクルト(1回戦)

 試合中盤まで視界を遮るように降り注いでいた雨も、いつのまにか小降りになり、勝敗が決する頃にはすっかり止んでしまっていた。野球の楽しさ、緊張感、そして怖さが凝縮された4時間49分にも及ぶ長丁場ともなれば天候が移ろっても何ら不思議ではない。

 偶然にも要した球数は両軍共に208球ずつ。中日7人、ヤクルト8人の投手たちが懸命につないだ全416球にわたる白熱したドラマは、まさしく最後の1球まで行方の分からない壮絶な展開となった。

 

岡田の25球

 

 10回表。悪送球や平田のラッキー安打などで満塁のチャンスを作り、なおも攻撃が続く最中、屋外ブルペンで岡田俊哉が肩を作り始める姿をテレビカメラが映した。

 先の練習試合では炎上を繰り返し、クローザーとしての資質に大いに疑問符が付いた中でのいきなりの開幕戦登板。1点では心許ないので2点、いやできればもっと大差の付いた展開で投げてもらいたいのが率直なところ。信用していないわけではないが、僅差の逃げ切りを安心して任せられるほどの信頼感はないのが現状の岡田の評価だ。

 おそらく最終回の登板が岡田だと分かったとき、「よし、岡田なら大丈夫だ!」と心から思えたファンはかなり少ないのではないか。

 ところが10回裏。雨上がりのぬかるんだマウンドに上がった岡田は、練習試合での不甲斐なさがウソのようにノビのあるストレートとキレのいいスライダーを低めにズバズバ決めていく。挙げ句の果てには実況アナウンサーが「さすがはクローザーですね!」と感嘆する始末。いやいや、あんた練習試合を見とらんのか、と突っ込む暇もなく、岡田はわずか7球で2アウトを奪ってみせた。念願の開幕戦勝利まであと1アウト。打席には高卒4年目、通算安打4本の古賀優大。

 もう今日は勝つだろうーー。そう確信した矢先の初球、あまり深く考えずに投げたような外角寄りの高めストレートを弾き返されると、打球はファースト後方にポトリ。歓喜の雄叫びを挙げるはずが、一転してイヤなムードに包まれる。

 とは言え、まだ一塁ランナーが出たに過ぎない。しかも2アウトだ。だが山田哲人の圧倒的な存在感を前にして、もはや2点リードという優位性も、2アウトという事実もどこかへ吹き飛んでしまったかのように、ドラゴンズにとって重苦しい空気が無観客の神宮を支配する。その山田がイヤらしい当たりの内野安打で出塁すると、さらに廣岡大志にもレフト前へ運ばれて2死満塁。

 打席には村上宗隆。将来のプロ野球を背負って立つことになるであろう若きモンスターの威圧感に怯えるなという方が無茶な話だ。ここまで来れば神頼み。といっても明治神宮の祭神がドラゴンズの味方をするわけないか。となれば、もう岡田に託すしかあるまい。カウント2-2。ヤケクソで投げたような高めのストレートに村上のバットが空を切り、ゲームセット。死闘制してドラゴンズは実に4年ぶりとなる開幕戦勝利を手にしたわけだが、正直言って嬉しさよりも疲れの方がドッと出た。

 そして、どうしても岡田に対して不満を抱かざるを得なかった。古賀のところで油断したよな? と。

 

古賀を山田だと思って投げていれば

 

 岩瀬仁紀が何かのインタビューでこんなことを言っていた。「何点取られようが、リードしたまま試合を終えるのがクローザーの仕事です」と。

 真理だと思う。その意味では今日の岡田は見事に逃げ切りに成功したわけで、本来なら褒め讃えるべきなのだろう。ただ、だからといって不用意にピンチを背負っていいわけではない。あの場面、思いのほか簡単に2アウトが取れて、ほぼ無名の打者に対して全く油断が無かったと言ったらウソだと思う。

 もし打席に立っていたのが山田なら、青木なら、村上なら、初球からあんなにも無用心な一球を投げていただろうか。いくら実績のない打者とはいえ、バットを持っている以上は何が起きてもおかしくはない。全ての打者に対して100の力で対峙するのは難しいにせよ、せめてあの場面だけは打者が山田だと思って投球して欲しかった。

 結果的に勝てたからいいようなもの。もし引き分けないし負けていたら、「あの古賀のヒットがなあ〜」と夜通し悔やむことになっていたはずだ。村上を三振に抑えた瞬間、岡田はセンター方向を振り向いてガッツポーズを作ったが、マッチポンプ感のある火消しはどうも好かない。

 

 と、“勝って兜の緒を締めよ”風の苦言を呈してしまったが、劣勢を跳ね返しての逆転勝利は見事の一言。9年ぶりの優勝に向けて、チーム一丸となっての最高のスタートが切れて嬉しい限りである。

 大野雄大は、まあ、うん。とりあえず大役お疲れ様。