ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ある日のドラゴンズ⑮(終)岩瀬仁紀が神に近づいた日

 日常から野球が消えて早数ヶ月。途方もない退屈を乗り越えて、待ちに待った開幕がすぐ目の前まで迫ってきた。

 当ブログでは自粛期間中、少しでも読者の皆様に“日常”を感じて頂きたく、過去の中日ドラゴンズの試合の中からランダムにピックアップした1試合に焦点を当てて振り返るという企画、題して「ある日のドラゴンズ」を14回に渡ってお送りしてきた。しかし日常を取り戻した今となってはわざわざタイムスリップする必要もあるまい。ただ、最後にちょっとだけ昔に戻りたいのでお付き合いいただこう。

 

ナゴヤドーム最少観客動員試合

 

 根尾昂、石川昂弥といったプロスペクトの登場によりドラゴンズの注目度が俄然増してきている。キャンプ地のグッズは記録的な売上を叩き出し、徐々にではあるがナゴヤドームの客足も戻りつつあるようだ。

 2013年には開場以来初となる年間動員数200万人割れを記録。それ以降はチーム成績に伴って低空飛行が続いたが、昨季は前年対比105.0%、10年ぶりに年間220万人動員を突破するなど黄金期並みの水準まで回復した。

 ではここでクイズ。1997年の開場以来、最も観客が少なかったドラゴンズの主催試合はいつか? 案外すぐに答えられた人も多いのではないだろうか。ヒント、というか答えはちょうど10年前の今日。今までで一番観客が少なかった試合で、球史に燦然と輝く大記録が誕生した。

 というわけで、「ある日のドラゴンズ」最終回で振り返るのはこちらの試合。

 

2010年6月16日vs日本ハム4回戦

 

 青や緑のシートが剥き出しのスタンドは、ガラガラを通り越してほぼ無人に近い。消化試合の時期でもなく、ましてやチームは首位をうかがえる位置にいる。にもかかわらず、一体なぜ? 実は雨天中止になった富山の試合の振り替えに急遽充てられたため、前売り販売期間が1週間しかなく、シーズンチケットも使えないという事情があった。

 しかし閑散とした球場内も、熱気だけは満員御礼かと勘違いするほど沸き立っていた。「あと1人、あと1人!」。6,947人の視線がマウンド上の鉄腕に注がれる。2死二塁、森本稀哲に投じた2球目、高めに浮いたスライダーを捉えた当たりがセンター後方を襲う。抜けたか!? 一瞬ヒヤリとしたものの、ルーキー大島洋平が背面ジャンプでガッチリ掴んでゲームセット。スタンドから注がれる溢れんばかりの拍手喝采を受けながら、さっきまで鉄仮面のような表情だった岩瀬仁紀が満面の笑みで捕手・谷繁元信とハイタッチを交わした。

 この瞬間、岩瀬は通算250セーブを達成。ドラゴンズの最終回を抑え続けてきた守護神が、大きな節目に登り詰めた。ただ当時、偉業に対する野球ファンの反応は決して好意的なものだけではなかったと記憶している。岩瀬がクローザーに本格転向したのは2004年。実質7年足らずで名球会入りを果たしたことに関して、先発投手の200勝や打者の2,000安打に比べて条件が緩すぎるのではないか? という声が少なからずあったのだ。たった250セーブぽっちじゃ今後も達成者が続出するに違いない、と。

 しかし10年経った今、その予測が完全に間違っていたことがはっきりした。なにしろ岩瀬以降、そこに辿り着いた者はゼロ。シーズン30セーブ達成者は毎年のように現れるが、これを継続するのが至難の技。一度信頼を失うとその座を外されてしまうという特性上、不調や怪我が許されず、ひたすら毎年セーブ数を積み上げていかなければならない。そのため、通算150セーブ達成者は岩瀬を含めて15人いるものの、そこから先へ進めずに脱落してしまう者が大半だった。現時点で達成者は岩瀬の他に佐々木主浩、高津臣吾の2人だけ。阪神の藤川球児があと7セーブで達成するが、いずれも球史を彩った超一流揃いというところにこの記録の偉大さを知ることができる。

 

 試合後、ヒーローインタビューで次の目標を聞かれた岩瀬はハッキリとした口調でこう答えた。「(落合)監督には300セーブまで行けと言われているので、300までは頑張ります」

 実はこの頃の岩瀬というと全盛期の凄みが影を潜め、クローザー交代論が盛んに叫ばれていた時期でもある。ちょうど浅尾拓也がノリに乗っていたことも、論を加速させる推進力になった。だが落合監督は一貫して岩瀬をクローザーに据え続け、結局目標の300セーブも翌年には達成。さらに監督が替わってもクローザー交代とはならず、遂には前人未到の400セーブにまで到達した。最終成績は407セーブ。250セーブでさえ10年に1人出るかどうかだというのに、400セーブなどもはや超人の域。おそらく今後、通算1,000試合登板と共に未来永劫破られることのない“アンタッチャブルレコード”としてランキングの頂点にそびえ立ち続けるに違いない。

 その偉大な通過点である250セーブの目撃者がわずか6,947人というのはあまりにも寂しいが、裏を返せば貴重な歴史の証人ともいえる。ナゴヤドームの最少動員記録、そして250セーブという2つの大記録を目の当たりにしたこの日のファンは心底ラッキーだったと思う。

 それではまた、2020年ペナントレースで。

 

2010.6.16○5-3日ハム