ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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輝けオッサンの星

 男はいったい何歳から“オッサン”なのか?

 日本酒がうまいと感じるようになったとき、アイドルの顔がみんな同じに見えるようになったとき。今の若者はけしからんと思うようになったとき、例え話がプロレスとドラゴンボールになったとき。いやいや、心に炎を宿している限りは生涯青春さ、なんてくだらない事をホザいてる場合じゃない。

 あの“西武”松坂大輔が開幕ローテの座を掴みかけているという。開幕が遅れたことが幸いしたとは言え、こんな展開になることをいったいどれだけの人達が予期できただろうか。

 

よくいえば不屈の闘志だが……

 

 14年ぶりの古巣復帰。このニュースを見たとき、私を含めて多くの野球ファンが現役最後の思い出づくり程度に捉えたはずだ。もはや遠い昔の出来事のようだが、昨季は春季キャンプ中の「ファンに右腕引っ張られ事件」を皮切りに肩、肘の故障もあって登板はわずか2試合。7月27日DeNA戦での大炎上(1/3回8失点)を最後に二度と一軍マウンドに上がることなく、旧知の森繁和、デニー友利両氏に連れ添う形で自らドラゴンズを去った。

 これじゃ西武に戦力として入団したと言われても、間に受けろという方が無理がある。球団的にはグッズも売れるし松坂的にもそれなりの年俸がもらえてWin-Win。失礼ながらそういう魂胆での移籍だと勘ぐりたくなるほど松坂は去年1年間ですっかり落ちぶれ、とどめのゴルフ事件でパブリックイメージまで悪くなった。

 そもそもソフトバンクの3年間で何もできなかった選手が、2018年はたまたまコンディションに恵まれて6勝できたようなもの。ガラスというより障子紙のような右腕が1年でも働けたことの方が、むしろ奇跡だったのかもしれない。10代の頃から酷使し続けてきた右腕がとっくに限界を迎えているのは誰が見たって明白。辞めどきならいくらでもあった。それでも松坂は、頑なに「引退」の2文字を拒み続けて今季もユニフォームを着ている。

 よくいえば“不屈な闘志”だが、どちらかといえば“悪あがき”というニュアンスが近い。ボロボロになりながらなりふり構わず現役にしがみつく姿は、かつての栄光を知らない若者から見れば哀れなオッサンにしか映らないのかもしれない。その松坂が、まさか開幕ローテに食い込むなんて。半信半疑ながら少しの期待を胸に試合を眺めていると、待ちわびていた背番号16がマウンドに現れた。

 

オッサンの星

 

 出番は3点差の6回だった。無精髭にネックレスの昭和ルック。久々に見る西武ユニなのにあまり懐かしさを感じないのは、当時のデザインとは大きく異なっているからだろう。

 オープン戦や3月の練習試合でも投げているが、開幕を目前に控えた時期の登板となると、また意味合いも違ってくる。中日だって去年までの同僚に花を持たせている余裕などない。なんなら3点差をひっくり返すような猛攻を期待したいし、多分打てるだろうとも思っていた。言い方は悪いが、ボーナスステージのようなものだと。

 ところが余裕をかましていられたのも高橋周平が四球を選んだところまで。ランナーを背負って投手の本能が目覚めたのか、突如としてストライクが入るようになった松坂はわずか11球で後続を断ち、スコアボードに「0」を並べた。

 ただし、その姿はかつて怪物と称された、豪速球を唸らせる投球とは全くの別物。最速136キロを計測したストレートは2球程度で、微妙な変化をつけて打ち取るベテランらしい投球に中日打者勢が惑わされた格好だ。若々しさなど微塵もない、いわば裏寂れたオッサンのような投球。それが今の松坂の現在地であり、精一杯の姿なのだろう。

 かつての勇姿とは似ても似つかないフォーム。現役にしがみつく松坂を否定的に捉えるメディアも少なくない。痛々しい、潔くないと。だがそんなことは松坂自身が一番よく分かっているはずだ。周りに何と言われようと投げ続ける。その執念の源泉はいったい何か?

 手がかりは、同じ松坂世代の生き残りとして昨季651日ぶりに白星をあげた和田毅のインタビュー記事にあった。リハビリで投げられなかった間の苦しさを支えたのはどんな想いだったのか? という問いに、和田はこう答えている。「同級生が、それも僕たちの世代を代表して引っ張ってきてくれた大輔が(あきらめない姿を)示してくれたことで、僕は励まされたんだと思います」(「和田毅が今もマウンドに上がる理由。復活の支えとなった松坂大輔の姿」石田雄太/webSportiva)。

 ここ数年で、かつてしのぎを削った同世代が相次いでグラウンドを去った。未だ現役のプロ選手は和田、藤川球児ら残りわずか。だが常に先頭を走り続けてきた松坂がいる限り、“松坂世代”は目標を失わずに戦うことができる。もちろん野球選手だけに限らない。松坂の姿に感化されたことがある全ての同世代にとって、その背中は道しるべになる。かつて日本中に勇気を与えたスターは今、時を経てオッサン達(もちろんオネエさん達も)の星になったのだ。

 残念ながら試合後、辻監督は松坂の開幕二軍を明言した。現時点で1イニングしか投げられないのに先発は任せられないという。その通りだろう。だが必ず松坂は帰ってくる。自分自身のために、そして戦う全ての同世代のために。もうここまできたら燃えて燃えて燃えつくし、灰になるまで続ければいい。松坂を見ているとつくづく思う。例えオッサンになろうと、心に炎を宿している限りは生涯青春だと。

 

練習試合●1-11西武