ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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根尾の逆襲

 若い時は許されたことでも、歳をとったら許されなくなることばかりでイヤになる。プレゼンでミスったり、営業で恥をかいても若い時は叱られつつも必ず誰かがフォローを入れてくれた。「これも勉強だから」「次から気をつければいいから」と。それが30代も半ばになるとどうだ。叱られもしなきゃチヤホヤもされない。できて当たり前、できなければ「え? 木俣さん、そんなこともできないんですか?」ってな具合に呆れられるばかりだ。

 その分、怒られないんだからいいじゃないですか、と若い人は思うかも知れないが、怒られるというのは(悪質なパワハラを除いて)必ずしも悪いことじゃない。それが響くか響かないかは別として、やっぱり叱られているうちが華、叱られなくなったら終わりというのはそれなりに説得力のある金言だと思う。

 歳をとると、叱られる頻度は若いときに比べればだいぶ減る。その代わりに、今度は若いときには感じなかったプレッシャーとの戦いが始まる。なぜなら結果だけを求められるから。どちらが良いと思うは人それぞれだが、誰もフォローしてくれない立場というのは、それはそれでしんどいものだ。たとえば分からないことがあっても相談する相手もいないし、若手にだってなめられたくもない。「妙なプライドは捨ててしまえばいい」とミスチル桜井和寿は軽く言うが、そう簡単に捨てられるなら誰も苦労はしないのだ。

 

日に日に薄くなっていく根尾の影

 

 プロ野球選手はサラリーマンよりも遥かに引退が早い分、より若いうちに自立が求められることになる。若干ハタチ、根尾昂とて例外ではない。鳴り物入りどころではない喧騒に包まれて入団したスーパールーキーだったが、その1年目は大きく期待を裏切る結果に終わった。

 それでもファンはポジティブに応援し続けた。三振しても「いい振りしとる!」、エラーをやらかしても「経験!経験!」と前向きな言葉でフォローしつつ、内心「おいおい、大丈夫かよ」と思っていた方も少なくないだろう。それでも大事な金の卵なのだ。余計なプレッシャーをかけて潰すわけにはいかない。そうやって根尾は、ファンからの愛情を一身に受けながら1年目を終えた。

 しかし今年、根尾の置かれた立場はガラリと変わった。きっかけは石川昂弥の入団。待望の和製大砲獲得に沸き立ったファンの興味は、一気に石川に移っていった。そして徐々に根尾への辛辣なコメントがネット上にも目立つようになった。当たる気配すらないフルスイングへのこだわり、未だにはっきりしない内野と外野のポジション問題。かたや石川は練習でも試合でもガンガンいい当たりを飛ばし、サードの守備も卒なくこなす。「直すところがない」とまで豪語した山﨑武司氏をはじめ、評論家からの評価も上々だった。

 石川に関して明るい話題が出るたびに、日に日に薄くなっていく根尾の影。たった1年にして、その立場は「期待のスーパールーキー」から「そろそろ頑張って欲しい若手」の一人へと格下げになってしまった。DELTAが出している12球団の若手選手の期待値を順位付けした「NPBトッププロスペクトランキング」の最新版では、5位に石川、さらに15位に石橋康太がランクインしたにもかかわらず、肝心の根尾は30位圏外という結果に終わった。世代のトップランナーもたった1年で形なしである。

 

打撃指導を立石総合コーチに一任

 

 たぶん今年は三振したのに拍手が飛ぶなんてことは無いし、エラーすれば容赦なく罵声だって浴びるだろう。ただ、首脳陣も思いのほか成長速度の遅い根尾に焦りを感じたのか、今後は打撃指導のいっさいを立石総合コーチに一任することを決めたという。色々なOBやコーチの教えを間に受けた末に、元々の良さが消えてしまう若手が後を立たないなかで、この決定は英断だと思う。

 この報道がでたのが3月28日のこと。あれから2ヶ月。果たしてその効果やいかにーーなんて勿体ぶらなくても結果は周知のとおり。2日のオリックス戦に「1番二塁」で先発出場し、4打数2安打4打点の大暴れ。「今年の目標は土台づくりです」とは言っていられない2年目の根尾が、いきなり最高の結果を叩き出した。

 去年は散々チヤホヤされた根尾だが、今年は一人のプロとして自立する姿が求められる。その第一歩として最高のスタートを切った。この勢いで開幕一軍、さらにはレギュラー奪取を夢見るのは時期尚早だろうか。だってほら、ちょうど一軍の二塁空きそうだし。