ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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初期・平田良介に見た夢をもう一度

 「わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい」

 昭和生まれの方なら一度は聞いたことがあるだろう。かつて丸大食品のCMで使用されていた名作キャッチコピーだ。ふと頭に浮かび、あらためて動画サイトで当時のCMを見てみた。スーパー戦隊シリーズ第2作目「ジャッカー電撃隊」の長官役でもおなじみ(?)の田中浩演ずる父親と息子が登山におとずれ、厚切りハムを焚き火で焼いてほうばったり、北国を走る貨物列車を飛び降りて眠気覚ましに雪で顔を洗ったり、山中にコテージをDIY建築したり……。

 80年代の中頃まで20年近く続いたこの親子シリーズは、一貫して家長としての父親と、サバイバル力を養成される息子の姿が描かれている。この手のワイルド系とは正反対の文化系家庭で育った私は、こんな経験してみたかったなあ、とほんの少しの羨ましさを感じるのも束の間、次の瞬間には「でもエアコンもウォシュレットも無いんじゃツラいよね〜」とへなちょこな結論に至り、挙げ句には「あ〜あ、今から何かの間違いでキングヌーのメンバーになれる方法ないかなあ」とズン飯尾のような妄想にふけながら自堕落な日々を過ごしているのである。

 わんぱくにもたくましも育たなかった私のような人間がいる一方で、EXILE系列のアーティスト達と、あとプロ野球選手というのは日本屈指の「わんぱくでたくましい」連中の集まりといえよう。中でもスラッガーといわれる選手達のたくましさは別格。柳田悠岐や山川穂高を想像してほしい。筋肉隆々の肉体、誰とでも簡単に打ち解ける陽キャ。もし職場にあんな社員が入社してきたら、「モテキ」映画版で森山未来がちょっと気になってる長澤まさみの彼氏・金子ノブユキに初めて会った時のような圧倒的な劣勢を感じてまともに会話すらできないだろう。

 早い段階で自分の運動神経の乏しさに気付き、さっさと「パワプロ」に逃げた私のようなヘタレとは月とすっぽん。プロ野球のスラッガーとは、半世紀も前のCMが提唱した理想の子育て論を地で行く存在なのだ。

 

 

頭脳派になった平田良介

 

 ドラゴンズも石川昂弥が入団したことでようやく世代交代した感があるが、ここ10年以上“わんぱくスラッガー枠”はひたすら平田良介の独壇場だった。福田永将はわんぱくと言うには朴訥すぎるし、高橋周平の弾道はスラッガー向きじゃない。こんがり焼けた肌の黒さ、虫取り網が似合いそうな無垢な笑顔、そしてときめく平田のあの構えと、そこから放たれる豪快なホームラン弾道。趣味が「読書」と言いつつ漫画オンリーで、「将棋」と言いつつ「棋」の字が書けないのも実にわんぱくだ。

 史上初となる夏の甲子園3連発という快挙を引っさげて大阪桐蔭高から入団した当時、誰もが将来の4番は平田で間違いないと確信した。まさに絵に描いたようなスラッガータイプ。その素質は、落合博満をして「俺を超える打者になれる」と豪語したほどだ。

 あれから14年。既にベテランと呼べるキャリアを積み上げた平田だが、その成績はかつてファンが思い描いたものとはだいぶズレていると言わざるを得ない。最多本塁打は2013年に記録した15本。「あれ? そんなもんだっけ?」とつい聞き返したくなる本数だ。その代わり、抜群の守備センスと正確無比な送球、ボール半個分すら見極める選球眼を武器とした“頭脳派のずんぐりむっくり”という独自すぎる地位を確立。それはそれで立派だし、実際平田がFAを行使していたらと思うとぞっとする。ドラゴンズに必要な選手であることは疑う余地もない。

 しかし若いファンはどうか分からないが、甲子園時代を見てきた人間としては、どうしても今の平田は物足りないし、しっくりこないのだ。贅沢も失礼も承知のうえ。それでも07年の日本シリーズ第5戦、ダルビッシュからもぎとったチーム唯一の得点である犠飛や、08年のプロ初ホームランとなるサヨナラ弾、そして11年交流戦での2試合連続サヨナラ弾から感じた途轍もない期待感とワクワク感からすると……今の平田で満足せいと言う方が無茶な話である。

 

“スラッガー平田”をもう一度

 

 もちろん、そもそもスラッガータイプでないのは百も承知だし、恩師でもある大阪桐蔭高・西谷浩一監督が早い段階で「平田は1番タイプ」と分析していたのも知っている。だが、キャリア初期に見せてくれた数々の鮮烈な活躍が、紛うことなきスラッガーのそれだったのもまた揺るぎない事実だ。

 残念ながら平田は近年、怪我がちでシーズン完走が難しくなっている。つい先日、29日もいきなり両足をつり、さらに目まいも出たとかで紅白戦を欠場してファンを心配させたばかりだ。おそらく昨年の状態からしても、120試合制とはいえ全試合スタメン出場は厳しいのではないかと思う。また過去にぎっくり腰、右足首捻挫、右膝痛に左下腿の肉離れと下半身の負傷が相次いだことで、体型には似合わぬ俊敏さもさすがに限界を迎えつつある。だからこそ期待してしまうのだ。キャリア初期に感じたスラッガーの片鱗をもう一度見せてくれることを。

 目まいも回復し、久々の実戦となった30日、平田は1打席めにいきなり結果を出した。山本拓実が投じた、見逃せば余裕でボールの高め真っ直ぐを強引に振り抜いた打球は、高々と舞い上がって無人のレフトスタンドに到達。まさに「ぶちこむ」という表現がふさわしい豪快なアーチは、久々に“スラッガー平田”を感じる一撃だった。

 そうだ、平田はこれでいい。内角はフルスイングで引っ張り、外角は腰を沈めてライトスタンドに放り込む。そんな姿を、今年はたくさん見せてくれーー。まるで売れてから楽曲の方向性が変わってしまったバンドが、久々に初期っぽい新曲を出したときのような心境で、私はその弾道にときめいていた。

 頭脳派のずんぐりむっくりも良いけど、やっぱり平田はわんぱくでたくましい方がよく似合う。今年は期待してるぜ、Mr.ロールスロイス。