ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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地獄をみる覚悟はできているか?

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 新型コロナウイルスの感染拡大で開幕を延期しているプロ野球は25日、オンラインで臨時12球団代表者会議を開き、セ、パ両リーグ公式戦の開幕日を6月19日に決めた。感染予防のため、当面は無観客試合で行う。

 

 「6月19日プロ野球開幕決定」

 この一報を受けて、ふたつの相反する感情がうずまいた。ひとつが喜び、楽しみといったポジティブな感情なのは言うまでもない。最後の対外試合(3月25日)から約2ヶ月。待ちに待ったプロ野球がようやく見られる!と小躍りしたのも束の間、もうひとつの厄介な感情がひょっこりと顔をのぞかせた。恐怖、不安……。そう、特定のチームを応援するうえでイヤでも付きまとう、ネガティブな感情である。

 しかも開幕カードは“魔境”神宮球場でのヤクルト戦が濃厚だという。昨季こそ勝ち越したものの、この球場には思い出したくもないようなシビアな記憶が多すぎる。

 今はまだいい。3ヶ月も生きがいを奪われ、さすがに精力も枯渇していたところだ。一刻も早くも野球が見たいし、なんなら勝ち負けだって二の次。日常のありがたみを嫌というほど思い知らされたこの自粛期間を経て、今は本気で「野球が見られればそれだけで幸せ」だと思う。ウソではない。

 だが、平和的なことを言っていられるのもせいぜい開幕当日、始球式(…は無いのか、今年は)までだろう。ひとたびプレイボールがかかれば、足はガクガク、手汗だらだら、ピンチでも背負おうものなら吐き気をもよおすほどの胃痛に見舞われ、妻からは「そんなイヤなら見なきゃいいじゃん」と冷たい眼差しを浴びせられる。そんな生き地獄を絵に描いたような日々がまた始まることになる。

 

目を閉じたら浮かんだ地獄

 

 「目を閉じて何も見えず 哀しくて目を開ければ 荒野に向かう道より他に見えるものはなし」

 1980年代のヒット曲をシャッフルで聴いていたら、谷村新司の代表曲「昴」が流れた。朗々かつ壮大なこの歌は、定年間際の上司が二次会のカラオケで気持ちよさそうに歌いあげる定番としてもおなじみだ。引用したのはこの歌の冒頭の歌詞。「目を閉じて何も見えず」に対して「当たり前だろ」というツッコミは野暮というもの。チンペーさんがそこまで言うならと、試しに開幕戦を想像して目を閉じてみたら、本当に哀しくなって目を開けてしまった。

 ただし、何も見えなかったわけでも、荒野に向かう道が見えたわけでもない。見えたのは、もっとキツい、こんな光景だった。

 先発の大野雄大が先頭の坂口智隆に四球を出し、続く山田哲人があわやスタンドインという大きなツーベース。二、三塁として青木宣親が粘りに粘って10球目をしぶとくライト前にポトリ。さらに4番村上宗隆が高めのストレートを振り抜いた打球は無人のスタンドに一直線に吸い込まれ……。

 ここで耐えきれなくなって目を開けた。悪い夢でも見たかのような心地。だけど久々に思い出すことができた。プロ野球観戦は、「見られるだけで幸せ」なんて生半可なものじゃない。もっとシビアで恐ろしいものだ。いや、決して最初からそうだったわけではない。まだ少年だった頃、目を輝かせながらテレビにかじりついていたあの頃は、勝敗なんかどうでもよかった。大豊泰昭が、山﨑武司が、パウエルが放つホームランがとにかく格好よくて、それさえ見られればチームの負けなんて気にもならなかった。

 ところが1999年、初めて「優勝」というものの尊さを知ってしまったあのシーズンから、プロ野球を見る意義が“勝敗”に変わってしまった。それからというもの、野球観戦は8割方“趣味”から“苦行”へと化した。今にして思えば、ライトな趣味にとどめておけば良かったのかもしれない。なまじのめり込んだせいで、ストレス解消のための趣味でストレスを溜めるという本末転倒に陥ってしまった。もはやプロ野球観戦は、地獄だ。

 

木下雄介、調整は順調

 

 そういうわけで、しばし忘れかけていた地獄がいよいよ来月、帰ってくる。ただし本来の3月開幕ならシーズンの半分近くを棒に振っていた怪我人が、完全復帰ないし復帰間近の状態で開幕を迎えられるのはただただ喜ばしいことだ。

 三ツ間卓也、溝脇隼人、アルモンテ。なかでも木下雄介は可哀そうだった。北谷キャンプの最終日、ファンサービスの一環としておこなわれた投手陣を含めた全員ノックの際に負傷。直ちに検査したところ、全治4ヶ月の左腓骨筋腱脱と診断された。順調にキャンプを消化し、練習試合やオープン戦にも登板。うまくいけば開幕一軍はもちろん、リリーフ投手として重要な役割を任される可能性も充分あった。躍進が期待された矢先の怪我に一ファンとしても相当落ち込んだのだから、本人のショックは計り知れないものがあったはずだ。

 その木下が今日(25日)、自身のインスタで投球練習の様子を収めた動画を投稿した。「昨日術後初めてブルペンの傾斜を使ってなげて怖さもなく無事に投げられて一歩前進!」というコメントが添えられた動画には、怪我明けとは思えないほどキレの良いボールを放る姿が映っていた。

 「やっと本格的な野球ができるようになりました」とのことなので、19日の開幕に間に合うかどうかは微妙だが、それでも一時は絶望の淵に立たされた木下が“シーズン序盤”に復帰できるなら、こんなに心強いことはない。コメント欄で茶化す田島慎二が、またいい味を出している。

 

 28日には紅白戦を実施し、来月2日からは練習試合が再開となる。一時は開催も危ぶまれたプロ野球が、いよいよ始まるのだ。それはすなわち地獄の始まりを意味する。だから問いたい。プロ野球という名の究極のリアリティショー、地獄をみる覚悟はできているか? と。