ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ある日のドラゴンズ⑭プロアマ断絶が生まれた日

 日常から野球が消えて早数ヶ月。本来なら一喜一憂に身悶えつつも幸せな日々を過ごしているはずだったのに、社会はすっかり非日常に支配されてしまった。いつ終わるとも知れない未知なる敵との戦いにいい加減うんざりしている方も少なくないだろう。

 というわけで当ブログでは、少しでも読者の皆様に“日常”を感じて頂きたく、過去の中日ドラゴンズの試合の中からランダムにピックアップした1試合に焦点を当てて振り返ってみたいと思う。

 題して「ある日のドラゴンズ」。誰も憶えていない、なんなら選手本人も憶えていないような、メモリアルでもなんでもない「ある日」の試合を通して、日常の尊さを噛みしめようではないか。

 

1961年4月19日vs巨人5回戦

 

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▲中日スポーツ(1961年4月20日付1面)

 

 すごい能力を持った若者に対して“末恐ろしい”とよく表現するが、この選手に関しては“末”を待つまでもなく“現在進行形”で恐ろしい。そんなとてつもないルーキーが中日に現れた。背番号20、権藤博の勢いが止まらない。

 過去2度の先発(巨人、国鉄)で共に1失点完投勝利を収めた権藤は、3度目の先発となるこの日も巨人相手に付け入る隙を与えず、なんと3安打完封。まったくの新人に開幕からわずか2週間足らずで2敗目を喫したとあって、川上哲治監督、広岡達朗兼任コーチは顔にシワを寄せて何も語らず。別所毅彦コーチだけが「完全に権藤にやられた。権藤のできはよかった。特にチェンジアップがいい。制球力もあるからなあ」と白旗をあげた。

 投げっぷりもさることながら、この権藤、試合後のインタビューでも新人とは思えぬほど落ち着き払った様子で好投を振り返った。「シャットアウト? 別に意識してなかったけど、できてよかったですよ。今まで僕は9回に必ず点を取られるといわれていた。今日も1点取られたら、これからもいわれるでしょう。それがなくなるからね」。

 さらに「でも長島さんはうまい。3打数ノーヒットでも次にヒットを打つでしょう。今度顔が合ったら、もっと慎重に投げないといけませんね」と当代一のスターを称える余裕もみせた。

 ただ、完投した前回の登板は16日の国鉄戦。今では考えられないが、中2日での先発である。その点を危惧した記者の質問には「一日休めば大丈夫。今のうちはね」とうそぶいたが、まさかこのあと69登板429.1イニングも投げることになろうとは、さすがに考えていなかっただろう。「今のうちは」大丈夫でも、やがて大丈夫じゃなくなる。そんな未来を知っているからこそ、つい古新聞越しに警告したい気持ちに駆られた。

 

柳川福三、入団決まる

 

 今日の「ある日のドラゴンズ」で、この日付を取り上げたのには理由がある。史上初の甲子園春夏中止が決定した今日。元ソフトバンクの斉藤和巳氏がこんなツイートをしていた。

 

 

 高野連の力だけでは難しいなら、NPBが協力すれば何かしら代替の大会を行えるのではという提案。実現すれば素晴らしいと思うし、斉藤氏が触れているようにプロアマの垣根を取り払う上でもチャンスに思える。

 しかし「大昔から続くプロアマの垣根」とは一体どういうことなのか? 少しでも古いプロ野球に興味のある方ならご存知かと思うが、このきっかけを作った張本人は何を隠そう中日である。詳細については「柳川事件」で検索すればいくらでもヒットするので、そちらをご参照いただきたい。

 

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▲柳川の入団を伝える記事

 

 権藤博が巨人相手にプロ入り初完封を飾った、まさにこの日。柳川福三は中日に入団することを決めた。記事には「20日にも日本生命に辞表を提出、21、22日ごろ来名のうえドラゴンズと正式契約を行うもよう」とある。もちろん中日だけが接触していたのではなく、巨人、南海、阪急との獲得争いを制した結果だったことは記しておく。

 21日には正式に契約を結び、柳川は中日新聞本社で会見をおこなった。その際には退職した日本生命の関係者から「プロへ入った以上はしっかりやれと激励された」(中日スポーツ同年4月22日付1面より)と答えているのだが、何をどう掛け違えたのか、このあと勃発したプロアマのいざこざは、59年経った今もなお、完全な修復には至っていない。

 大昔の悲しい事件を過去に葬り去り、今度こそ歴史的な第一歩を踏み出すことを心から期待したい。

 それではまた、ある日どこかで。

1961.4.19○中日4-0巨人