ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ある日のドラゴンズ⑧前夜祭は豪快に

 日常から野球が消えて早数週間。本来なら一喜一憂に身悶えつつも幸せな日々を過ごしているはずの春なのに、社会は“緊急事態宣言”だの“首都封鎖”だの物騒な言葉で埋め尽くされてしまった。いつ終わるとも知れない未知なる敵との戦いにいい加減うんざりしている方も少なくないだろう。

 というわけで当ブログでは、少しでも読者の皆様に“日常”を感じて頂きたく、過去の中日ドラゴンズの試合の中からランダムにピックアップした1試合に焦点を当てて振り返ってみたいと思う。

 題して「ある日のドラゴンズ」。誰も憶えていない、なんなら選手本人も憶えていないような、メモリアルでもなんでもない「ある日」の試合を通して、平和の尊さを噛みしめようではないか。

 

 

2006年10月9日vsヤクルト21回戦

 

 「スポナビ」野球速報の特別企画「プロ野球復刻試合速報」。各球団の過去15年程度の名試合をおなじみの野球速報アプリで完全再現するというこの企画。明日25日は中日ファンの間で伝説として語り継がれている2006年10月10日の巨人戦が復刻される。

 これに先立って今回の「ある日のドラゴンズ」は前夜祭と称し、この試合の前日におこなわれた神宮球場でのヤクルト戦を振り返ってみたいと思う。リアルタイムで体感したファンは憶えているかも知れないが、若者など後追いの世代にとっては10月10日の試合は知っていても前日の試合までは把握していないのではないだろうか。

 

 この日の先発は中田賢一。前日の朝倉健太と同様、中4日での登板というところにシーズンのクライマックスを感じる。

 ヤクルト先発・石川雅規の前に初回、2回は抑え込まれていた中日打線だが、3回2死から荒木雅博がセンター前にチーム初ヒットを放つと、続く井端弘和の打球は高々と舞い上がり左中間スタンドへ着弾。全盛期を迎えたアライバコンビの躍動で2点を先制した。

 一方の中田は初回から制球が乱れる苦しい投球。援護をもらってすぐの3回裏には連続四球などで2死満塁のピンチを背負い、迎えるは4番・ラミレス。追い込みながらも高めに甘く入ったスライダーをジャストミートした当たりはセンター後方へとグングンと伸びていく。走者一掃かと誰もが覚悟したが、この日スタメン出場のセンター・英智が腕を伸ばしてジャンプし、最後はフェンスにぶつかりながら間一髪でキャッチ。スーパープレーが中田を救った。

 

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 ピンチのあとにチャンスあり。強竜打線が大爆発したのは4回表のことだ。先頭のT.ウッズのセンター前ヒットから始まったこの回の攻撃。英智のタイムリー、谷繁元信の通算1500安打めとなるタイムリーツーベース、さらに中田もタイムリーで続き、井端が四球、福留孝介も一、二塁間を抜いて2死満塁。ここで打順が一巡し、打席には再びT.ウッズ。

 その初球、甘いスライダーを叩くと、夜空を切り裂いた打球はセンターバックスクリーンへと一直線。第45号のグランドスラムで10-0と勝負を決めると、神宮球場のレフトスタンドはまるで優勝したかのようなお祭り騒ぎに沸いた。

 あとは久本祐一、鈴木義広、石井裕也と勝ちパターンを温存する余裕の継投で逃げ切り、落合竜はいよいよマジック「1」として運命の東京ドーム・巨人戦を迎えることになった。

 

落合監督、Vポーズで優勝宣言

 

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▲中日スポーツ2006年10月10日1面
(資料提供・キャプテンハルシスト様)

 

 鳴り止まない神宮球場の大声援に、落合監督は帽子を脱ぎ、両手を広げてVポーズを作った。

 「ようやくだな。今年一番、楽なゲームだった。
(マジックが)1になるとな。2と1とでは全然違うんだ。大変な重みがある。やっとそこまで来たんだ。名古屋も(ファンは)多いけど、関東も多いんだな。ここで気持ちを緩めたらダメなんだ。明日決める? それがベストだな」

 一時はぶっちぎりで独走したペナントレースも、9月に入ると阪神の猛追撃に遭いあわや首位陥落というところまで追い詰められた。しかし苦しい戦いをギリギリで踏みとどまり、ようやくここまで来た。あとはゴールテープを切るだけ。3年めを迎え、あらゆる面で円熟に達した落合竜が万感のフィニッシュを決める--。

 

負傷交代のT.ウッズは出場微妙か

 

 ひとつだけ気がかりなのは、主砲の怪我の具合だ。T.ウッズは2回の打席で自打球を左足のくるぶしに当て、グランドスラムを打った直後の4回の守りから退いた。ベンチ裏でアイシングに専念したが、足をひきずるほどの痛みは引いていない。

 「ファウルを打った時に痛めたんだ。今までにこんな痛み味わったことがない。コールドスプレーをかけてアイシングしてテーピングで固定したけど痛みがとれなかった。(10日の巨人戦の出場は)様子を見て決めたい。病院には行かない。あまり痛ければ出られないかもしれない。明日の回復を祈るばかりだ」

 この日、西沢道夫が持つシーズン135打点の球団記録を56年ぶりに塗り替えたT.ウッズ。名実ともに球団史上最強の4番となったこの男なくして今季の快進撃は語れない。明日はなんとしても出場し、痛烈な一閃を放って欲しいところだ。

 

 運命の一戦は明日、13時からスポナビ野球速報アプリにてプレーボール。ちなみに同アプリを開くと既にスタメンが表示されているが、当時の現地では「4番ファースト T.ウッズ」のコールと共に唸りのような大歓声が起こったことを書き記しておく。

 

2006.10.9 ○中日10-1ヤクルト