ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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岡野の牽制

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 中日は3月最後の練習試合を行い、巨人に惜敗した。7回1死二塁から3番手のゴンサレスが北村に左中間適時二塁打を許して先制されると、直後の7回2死から福田の中越えソロで同点。だが、同点の9回に5番手の岡田が2死満塁から代打・小林に中前適時打を許した。

 

 ルーキー5人が集結した今日のナゴヤドーム。変則も変則の日程とはいえ、この時期にこれだけ多くのルーキーが1軍に帯同するのは見たことがない。手元に詳細な資料がないので推測にはなるが、たしか2010年に大島洋平、松井佑介、松井雅人の3名が開幕メンバーに名を連ねたのが、ルーキーの開幕時期の1軍帯同としてはここ20年間の最多ではなかろうかと思う(他にも思い当たる節があればお教えください)。

 ましてや2名の高卒ルーキーが桜の咲く頃にナゴヤドームの土を踏むことなど前代未聞。もはや勝ち負けなど二の次、フレッシュなメンバーで臨んだ今日の試合だったが、残念ながら岡林勇希、石川昂弥は共にノーヒットに倒れた。

 特に昨日、本塁打を含む猛打賞を記録したばかりの石川には練習試合とは思えないほどの大きな注目が集まったが、なんとか相手のエラーで出塁するのが精一杯。3打席立って投手に投げさせた球数はわずか12球、そのうち4球が空振りと、本来のコンタクト力に優れたバッティングは鳴りを潜めた。

 とはいえ相手が悪かったのも否めない。今日の巨人先発・戸郷翔征はシーズン中でなくて良かったと思うほど出来がよく、4つの3球三振を含む4回7奪三振と付け入る隙さえ与えぬ完璧な投球で中日打線を牛耳った。特にフォークの冴えっぷりたるや、妖怪の域。あのキレ味鋭いフォークと最速150キロのストレートを見れば高卒2年目にして巨人の開幕ローテを勝ち取ったのも然もありなんといった感じだ。

 前回のソフトバンク戦で大炎上した反省もあったのだろう。相手がルーキーだろうが初1軍だろうがお構いなしに初球から変化球で揺さぶる投球は本気そのもの。試合後、石川は「打てなかったけど、しっかり積極的に振っていけた。いい経験、いい勉強になったとコメントしたそうだが、紛れもなく本物の1軍レベルを体感できたことはとてつもない刺激になったはずだ。容赦なく封じ込めにきてくれた戸郷には感謝したいと思う。

 

 

牽制に岡野の真髄を見た

 

 戸郷も戸郷なら、ドラゴンズの先発だって負けちゃいない。岡野祐一郎がまた一歩、開幕ローテ入りに前進した。

 まるで戸郷の投球に感化されるように岡野の右腕が冴え渡る。ストレートの最速は146キロ。特段速くもないボールで凡打の山を築けるのは、内外をうまく使った投球術あってこそだろう。

 戸郷が“剛”なら岡野は“柔”。見事だったのは2回表の2死一、三塁のピンチだ。打席には炭谷銀仁朗。3球で2ストライク1ボールと追い込んでから、4球目の内角高めへのストレートをファウルにされた。初球にカーブを投じたあとは3球連続でストレート。セオリーなら低めへの変化球で空振りかゴロに打ち取りたいところだが、ここで岡野が選んだのはなんと“一塁牽制”だった。

 もちろん本気で走者を刺すための牽制ではない。この牽制は複数の意味を持つ。どうしても打者との勝負に一点集中しがちなこの場面、牽制を挟むことで不意を突くランエンドヒットを仕掛けにくくするのが一つ。また打者の集中力を削ぐのが一つ。さらに炭谷の眼にはっきりと映っているであろうストレートの残像を薄めることもできる。

 ひと呼吸置いてから、バッテリーがフィニッシュに使ったのは変化球ではなく膝もとへのストレートだった。読み打ちのプロでもある捕手・炭谷の裏をかく配球で二ゴロに抑え、岡野はこの日最大のピンチを凌いだ。無謀とも言える4球続けての真っ直ぐが効果を発揮したのも、ふいに挟んだ牽制あってのことだと私は感じた。

 

 つい勝負に入り込んで周りが見えなくなりがちな場面で牽制を挟む余裕があるとは、恐ろしく冷静なルーキーが現れたものだ。アマ時代から“勝てる投手”と称されてきた岡野の真髄を見たような気がした。