ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ただ者でない!

 ナゴヤドームにテラスが設置されるという来季以降はともかく、少なくとも今季は従来どおり「投手力を中心とした守り勝つ野球」が求められる。この球場では長年、リリーフの差が試合の行方を左右してきた。浅尾拓也や岩瀬仁紀のような絶対的なリリーバーが出てこなくなったのと歩を合わせるようにBクラスの泥沼にはまり込んでしまったのも、決して偶然ではないだろう。

 さてこのオープン戦、ドラゴンズのリリーフ陣は少し心配な状況に置かれている。五輪予選の延期でR.マルティネス、Y.ロドリゲスの来日予定が未定となり、ノック中に負傷した木下雄介には全治4ヶ月というショッキングな診断が下った。8,9回を任せたい藤嶋健人、岡田俊哉がそろって精彩を欠いているのも不安材料である。

 安定しているのは福敬登、ゴンサレスくらいで、鈴木博志、又吉克樹、祖父江大輔といったあたりは投げてみないと分からない怖さが付きまとうのは周知のとおり。なんとかもう1人、計算できるリリーバーが喉から手が出るほど欲しいというところで、今日7回から登場したルーキー左腕・橋本侑樹が大いに期待を持たせてくれる快投を見せてくれた。

 

 

キレ味鋭いスライダーで3連続K

 

 今日のロッテ戦、京田陽太のタイムリーで逆転した直後、1点リードで迎えた7回表のマウンドに橋本は上がった。オープン戦とはいえルーキーには少々荷が重い場面だが、居並ぶ左打者に対してこのサウスポーは惜しげもなく“武器”を多用して三振の山を築いた。キレ味鋭いその武器の名はスライダー。3者連続三振のフィニッシュは全てスライダーで決めた。

 与田監督いわく「最初から予定していた」という回跨ぎの8回は2死一、二塁のピンチを背負うも、左打者の安田尚憲に対して打者の背中からストライクゾーンに曲がり込むようなスライダーで見逃し三振を奪った。安田としては3球連続で外角低めを攻められ、そろそろ内角かと意識するところでの真ん中付近へのスライダーは想定外だったはずだ。

 自分の持ち味を把握したうえで、しっかりと要所を締める。ルーキーとは思えないクレバーな投球に「ただ者でない!」と膝を打った。

 

21年前にもいた鬼スラの使い手

 

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▲岩瀬のスライダーに巨神007がビビった
(中日スポーツ1999年2月13日1面)

 

背番号「13」のサウスポーで、それもスライダーを決め球にするリリーバーといえば岩瀬仁紀を思い浮かべるなという方がムリな話である

 21年前の北谷球場。のちに登板試合数のプロ野球新記録を樹立する稀代のサウスポーは、早くもその片鱗を見せつけていた。入団以来、初めて中日スポーツの1面を飾ったこの日の見出しは「ただ者でない」。巨人、阪神の007がそのスライダーのキレ味に舌を巻いた。

 「今年も中日の投手陣はいい。特に13番。球に力があるし、コントロールもそう悪くなさそうだ」(巨人・藤田浩雅スコアラー)

 「面白い球を持っているな。早くから出てくるだろう」(阪神・小笠原正一スコアラー)

 元々、阪神は前年夏の段階で岩瀬をドラフト1位候補にあげるなどスカウトの間では有名な存在だったが、いざプロのユニフォームに袖を通した岩瀬のボールは評判をさらに上回るものだった。

 この日は思わぬハプニングもあった。ブルペンでの投球中、スライダーがキレすぎてベース手前で弾み、勢いでボールがブルペン外まで飛んでいったのだ。「場外ホームランだ」とブルペン内が笑いに包まれ、星野監督も「本当にピッチャーか? 珍しい奴だなあ」と大爆笑したという。

 ただ、見出しの「ただ者でない」は投球よりも岩瀬本人のコメントを指している。他球団の高評価を記者から聞かされた岩瀬は「そうですか…。評価はいいに越したことはないけど、評価と結果は違うじゃないですか。プロは結果が全てですから」と浮かれることなく冷静に対応。新人らしからぬ風格に対する「ただ者でない」なのだ。

 

 こんな偉大すぎる大先輩の背番号を引き継ぐことになった橋本だが、今日の好投を振り返った言葉が頼もしい。「三振を狙って取れたのは自信になる」、「ピンチこそ冷静に力まず投げられた」(スポニチより)。

 橋本侑樹。この男、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。