ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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5年前の主役

 観衆は超満員の4万3千人。4点リードで迎えた9回裏も2死までこぎつけた。灼熱のマウンドに立つのは小笠原慎之介。この日はWエースの一角・吉田凌の救援を得ずに1人で投げ抜いてきた。

 渾身の161球目。青木玲磨の打球をライトの百目木優貴が大事に捕ってゲームセット。高校野球100周年の記念大会を制した名門・東海大相模。その決勝戦は、小笠原が完投し、小笠原が決勝ホームランを放つ。まさに小笠原の一人舞台となった

 早実のスーパー1年生・清宮幸太郎の人気に引っ張られる形でオコエ瑠偉、山本武白志など個性豊かなタレントが次々と現れた第97回夏の甲子園。その国民的な注目は、名門同士の顔合わせとなった決勝戦でピークに達した。平日の真昼間でありながら平均視聴率は20.2%(関東地区)を記録。異例の盛り上がりをみせたこの大会のクライマックスで、小笠原は主役に躍り出た。

 あれから早5年。最速151キロ出ていた小笠原の真っ直ぐは、140キロ台前半にまで落ちてしまった。チェンジアップとカーブでタイミングを外しながら丁寧にコーナーを突く今の小笠原には“技巧派”の趣きが漂っている。唸るような真っ直ぐでグイグイ押す、あの夏の小笠原はもう2度と見られないのだろうか。

 

 

怪我に苦しんだ4年間

 

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 静岡は草薙球場でおこなわれたオープン戦。先発の小笠原が崩れたのは3回だった。わずか4球で2死を奪い、すんなり行けるかと思った矢先、鈴木大地にカーブをライト前へ運ばれると急におかしくなった。続く島内宏明にあっさり四球を与え、4番浅村栄斗にはタイムリー。さらにブラッシュ、銀次への連続四球で押し出しを許し2点目を失った。

 「調子はいい。結果は勝手に付いてくると思う」*1と自信をみせていた元気者もさすがに落ち込んだのか、降板後は取材に応じずに投げ込みしたあと、無言でバスに乗り込んだという*2。それでも投手不足に喘ぐ現状、小笠原は調子の如何を問わず開幕ローテに入るだろう。

 ただ、今の状態は本来の小笠原には程遠い。そもそも中日ファンは、“本来の小笠原”とやらを一体どれくらい見たことがあるのだろうか。ソフトバンク相手に無死満塁を凌いだ衝撃のデビュー戦、菅野智之と投げ合い初完封をあげた2年前の勝利……考えてみれば“圧巻”と呼べる投球は、まだ片手で数えられる程度にしか見ていないことに気付いた。

 小笠原のプロ生活は怪我に苦しめられた4年間でもあった。ルーキーイヤーのオフに受けた遊離軟骨除去手術から始まり、初の開幕投手に抜擢された2018年は肘の故障で夏場に離脱し、フルシーズン完走はできなかった。昨年の今ごろは投げ込みもできず、ようやく復帰したのはお盆の時期。そんなこんなで5年が経ち、いよいよ同世代が大学を経てプロに入ってきた。

 この日、マスクを被った郡司裕也もその1人だ。3年の夏、あの決勝戦で郡司は仙台育英の「4番捕手」でフル出場し、小笠原から1安打1打点をあげている。その郡司の目に、5年ぶりに見た小笠原の投球はどう映っただろうか。あるいは自分のことに精一杯でそんな事に思いを馳せている余裕もなかったか。

 いずれにせよ、ドラフト1位の評価を得た「東海大相模の小笠原」の姿はそこにはない。海千山千のベテラン投手のように緩急を武器に“技巧派”として生きるのも道ではあるが、これだけのポテンシャルを持つ投手が22歳で転向するには、いささか早すぎる境地のように思える。

 予定どおり開幕するなら、実戦での調整登板はあと1回を残すのみ。97年世代のトップランナーは再び“モノの違い”を見せつけることができるだろうか。

 

 

*1:中日スポーツ「楽天戦先発予想の中日・小笠原」

*2:東海ラジオ「ドラゴンズステーション」