ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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三拍子揃った京田

 逆転された直後の4回裏、試合を振り出しに戻したのは京田陽太の“足”だった。1死一塁、カウント1-1から放ったライト前ヒットを田中和基が後逸。ボールが転々とする間に全力疾走でダイヤモンドを駆け抜けた京田は、ヘッドスライディングでホームへ生還した。公式戦に取っておきたいくらいの珍しいランニングホームランである。

 このオープン戦、京田の走攻守に躍動したプレーが目立っている。昨日のDeNA戦では三遊間を襲った深い当たりを横っ飛びで捕球し、素早い送球でアウトをもぎとる場面があった。去年も2,3度みせた、京田にしかできないスーパープレーだが、京田クラスの選手がこの時期に怪我のリスクを厭わず全力プレーをすること自体が稀。今さら首脳陣にアピールするような立場でもない京田があれだけのプレーをみせたのは、Bクラス脱出への並々ならぬ決意の表れだと感じた。

 おそらく京田はチーム全体の士気を高めるために、またオープン戦といえども常に緊張感を保つために、主に若手や非レギュラーに対して文字どおり身を呈して“一軍の野球とは何ぞや”を示しているのではないだろうか。昨季、ZOZOマリンスタジアムでの悪夢の6点差逆転負けのあと、京田が人目を憚らずにフェンスを蹴り上げた姿が論議を呼んだのは記憶に新しい。チーム内に蔓延する仲良しムードにも賛否はあるが、新選手会長に選ばれた京田は就任時に「仲良しこよしは嫌い」とキッパリ断じた。

 こうしたエピソードから伝わるのは、京田という選手の野球に対するストイックな姿勢だ。もちろんモノに当たるのは良くない。でも、あの試合でただ1人怒りをあらわにした京田がとても頼もしく思えたし、嬉しかったのも確かだ。

 

そういう京田を後継に指名した福ちゃんもよく分かってるよ、まったく

福田は良くも悪くも優しすぎる面があったが、京田は厳しさに徹することができる。まだ若いのにすごい選手だよ

 

 

GG賞が心に火を付けた?

 

 去年、リーグ屈指のuzrを記録したにもかかわらず、ゴールデングラブ賞を逃したのが相当悔しかったのだろう。京田は「来年は取ります! 打てばいいんでしょ」と皮肉をこめて言い放った。不見識な記者たちに対する強烈な一撃。こういう骨のある選手、大好きだ。

 ちやほやされたのは1年目まで。2年目は四球の少なさを散々指摘されたことに対し「打撃スタイルを変えることは絶対にない」と反発した。3年目の昨季は高卒ルーキー根尾昂のライバルとみなされ、開幕戦は堂上直倫に競り負けてベンチで迎えた。そこから信頼を勝ち取り、特に守備では多大なる貢献を果たしながらも、今度は打率の低さが槍玉に上がってGG賞受賞ならず。

 大卒選手としては至って順調な成長曲線を描きながら、いつまで経っても一流扱いされないのは、新人王を獲得した1年目の活躍があまりにも鮮烈すぎたからに他ならない。あのとき感じた途方もない可能性からすれば、確かに今の成績では少し物足りない気もする。もちろんショートで2割5分前後打てていれば及第点は付けられるが、“京田はこんなもんじゃない”という思いが強すぎるあまりに厳しい見方をしてしまうのである。

 だが、選手会長に就任した今年の京田はひと味違う。課題と言われ続けたバッティングもいよいよ覚醒間近を感じさせる快音が響き始めている。

 「守備は超一流だけど、打つ方がねえ」

 こんな巷の評判を一気に覆し、1年目に思い描いた“三拍子揃った京田”が遂に見られそうな雰囲気が、今年の京田には大いに漂っている。