ちうにちを考える

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現有戦力20%の底上げ

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 このキャンプ初の実戦形式となる紅白戦。誰よりも目立ったのは根尾昂でも、藤嶋健人でもなく、指名打者で先発出場した桂依央利だった。紅組の9番打者として右中間に本塁打をぶちこむと、白組の8番打者としても鋭いあたりの二塁打と長打2本。守っては6回に盗塁を試みた渡辺勝を二塁で刺し、首脳陣が見つめる中で猛アピールに成功した。

 紅白戦の特別ルールにより両軍を股にかけて出場したため、他の選手よりも打数が多かったのもあるが、それでもこの時期に存在感を示したのは今後につながるはずだ。現状、A.マルティネスを除いた6人の捕手に序列を付けると、若さと将来性に乏しい桂はドン尻と言わざるを得ない。現に昨季の一軍出場試合数は6人の中で最少のわずか4試合。ファンが予想する戦力外の筆頭候補にも度々名前があがった。

 だが、実際に戦力外になったのは杉山翔太だった。「杉山と桂」。セットで語られることも多かった2人だ。入団以来、共に正捕手候補として凌ぎを削ってきたライバルとの命運を分けたのは、わずか1個違いの年齢の差だったのではないかと推測される。昨秋のドラフトでは杉山と同じ六大学三冠王・郡司裕也が指名された。

 今年ダメなら次は自分の番だ--危機感を持たないはずがない。昨季の実績からして加藤匠馬、木下拓哉が優遇されるのは確定。残るは第3捕手の座を巡る争いになるが、桂がそれといったアピールをできなければ、首脳陣が使うのは、そしてファンが見たがるのは間違いなく郡司と石橋だろう。たかが紅白戦、しかし桂にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際。

 結果は先述の通り。みごとに爪痕を残した。ライバル達も負けじとアピールしたが、一番目立ったのは桂だ。7年目とはいえ、まだ28歳。木下とは同い年で、加藤とも1個しか違わない。まだ遅くない。一度死にかけた男が、正捕手争いに殴り込んできた。

 

 

現有戦力の底上げを実感した

 

 2004年、就任したばかりの落合監督は補強を凍結した理由を「現有戦力を10%底上げすれば優勝できるから」だとし、チーム内の競争を煽った。当時、小久保裕紀やタフィ・ローズを補強して史上最強打線を形成した巨人と比較して、補強なしで戦おうとする落合の考え方を叩く者も大勢いた。だが結果は知っての通り。「だから優勝できるって言ったじゃん」とドヤ顔を決めた落合は、そのオフ、どうしても底上げできなかった4番の座を埋めるべくタイロン・ウッズを補強し、8年間に及ぶ黄金期を築き上げた。
 あれから16年。球団史上最悪の低迷に沈むチームを変えるためには補強が必要だとする向きもあるが、チームが変わるには人員全体の大半を占める現有戦力の底上げが第一だと私は思う。補強はそのあとでいい。

 与田監督が昨年、無理を承知で開幕から加藤を使い続けたのは、まさしく底上げの一環だといえよう。文字通りチームの“底”にいた加藤を引き上げることで他の捕手を焚き付け、たった1年で見違えるように全員がたくましくなった。今日の紅白戦、必死にアピールする捕手達の姿を見て頼もしさを感じると共に、これが本当の競争だよな、とも思った。無責任な指導者は「今の選手はハングリーさが足りない」「もっとギラギラしたものを見せて欲しい」などと抽象的な不満を口にするが、選手の野心を掻き立て、ギラついた目を引き出すのも指導者の役割なのではないだろうか。

 もちろん捕手だけではなく、それ以外の選手の必死さも伝わってきた。10%どころか20%くらい底上げできているような、そんな気にさせてくれる紅白戦だった。