ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ヤンキー主義の継承者

 ヤンキーの姿を見かけなくなって、どれくらい経つだろうか。

 男子は腰パン、女子なら長スカートに金髪、バイクを買うお金は無いから50ccのスクーターにまたがり、同じような身なりの仲間と夜な夜な公園や学校に集まっては喫煙、シンナー遊びにふける。それだけなら個人の嗜好の範囲内で済むが、彼らは人々が寝静まった頃にけたたましい音を立てて暴走行為に興じたり、なんの罪もない他校の生徒から現金を巻き上げたりと、平気で一般市民にも迷惑をかけるからタチが悪い。

 そんな輩が平気で町中を闊歩している光景が、つい15年ほど前まではどこの地域でも当たり前のように見ることができた。特に、今や大型ショッピングモールの端っこで親子連れのふれあいスポットと化しているゲームセンター、通称ゲーセンなんてものは不良の温床の代表格として教育委員会やPTAから目の敵にされていて、小学生は原則として保護者同伴でなければ立ち入ることすら許されないようなヤバい場所だったのだ(「あぶない刑事」や「はぐれ刑事純情派」といった当時の刑事ドラマを見ていても、非行少年がたむろしているのは大抵ゲーセンである)。

 たまに背伸びがしたくてゲーセンに行っても、内心ではいつヤンキーにカツアゲされるか怖くて仕方がなく、足の震えを抑えつつ必死に平静を装いながらプレイした「ストII」や「餓狼伝説」が懐かしい。

 そんな感じで子供にとって、極めて身近な“悪の象徴”として機能していたヤンキー。少なくとも小学生の間は誰しもが「怖い」「悪い人達」と忌み嫌っていたはずが、どういうわけだか中学に入るとそっちの世界に誘われていく奴がクラスに数人は必ずいた。ついこないだまで小学校の校庭で一緒に缶蹴りしていたケンちゃんが、放課後カルピス飲みながら「がんばれゴエモン」一緒に頑張ってクリアしたあのヤスキが……いかにも悪そうな上級生とウンコ座りでタバコ吸ってるのを見るのは、他人事ながら結構キツイものがあった。

 なぜ彼らは、悪だと分かっていながらヤンキーの世界に染まってしまうのか。それは主に創作の世界において、ヤンキーは“カッコいい存在”として描かれることが圧倒的に多かったからだろう。「疾風伝説 特攻の拓」「湘南純愛組!」「ろくでなしBLUES」「カメレオン」……。あの時代、少年誌はヤンキー漫画で溢れかえっていた。ただでさえ感化されやすい年頃の少年達が、あらゆる娯楽の中でもブッチギリで影響力の強かった少年漫画の世界に憧れるのは、ある意味当然といえよう。ちなみに野球文脈でいえば、有名な「ストッパー毒島」の作者ハロルド作石がヤンキーの日常を描いたギャグ漫画「ゴリラーマン」は出色の名作である。

 

 

プロ野球も脱ヤンキー化が進む

 

 ところがヤンキーは、絶滅した。いや、厳密にいえば、まだわずかにはいるのかも知れないが、少なくとも普通に町を歩いていても、お目にかかる機会はそうはない。夜になればスクーターの爆音が聞こえていた'80年代〜'00年代初頭から見れば、その数はもはや絶滅と表現しても差し支えないだろう。

 それと並行して劇的に変わったのがプロ野球選手のルックスだ。かつてのパンチパーマ、金ネックレスを代名詞とした反社会的勢力ファッションは'90年代半ばには姿を消し、入れ替わるように登場したのがストリート系ファッションに身を包んだイチローだった。スマートでおしゃれという、それまでのプロ野球界には無い価値観を提示し、なおかつ誰も手が届かない圧倒的な成績を叩き出したイチローの存在は、まさに風雲児そのものだった。

 '98年には色白美青年の慶応ボーイ高橋由伸が入団、翌'99年のゴールデンルーキー松坂大輔は、ヤンキーのイカつさとは程遠い純粋無垢な笑顔で日本中を魅了した。バブル期にも“トレンディ”を合言葉に若手選手達が女性人気を集めたことはあったが、西崎幸広も阿波野秀幸も、根底に流れるのはヤンキーの血だった。でなきゃセカンドバッグを窓に叩きつけるようなことはしないだろう。球界全体でのルックス革命は、サッカーに遅れること数年、'90年代の終わりになってようやく起こったのである。

 では反社会的勢力ファッションから派生したヤンキーもといオラつき系ファッションは絶滅したのかといえば、実はそうではなく、今なお脈々と球界に受け継がれている。巨人移籍後の清原和博を手本としたようなガラの悪さは中田翔が正統後継。また西岡剛や中島宏之、最近だと浅村栄斗、森友哉、鈴木誠也なんかもヤンキーの匂いを残す選手だ。

 

中日随一のヤンキー選手

 

 趣味はパチンコで、喫煙者。平成の初めまでは当たり前だったそんな“テンプレ的ヤンキー”もすっかり影を潜めた球界にあって、ヤンキー主義を継承した上記の選手達はむしろ珍しい存在だといえよう。一方で特筆すべきはその成功率の高さだ。揃いも揃って超一流。そういえば今季セ・リーグMVPの選出が確実視される坂本勇人もバリバリのヤンキー系だ。

 ややこじつけではあるが、プロ野球のような力と力のぶつかり合い、殺るか殺られるかの世界においてはヤンキー的なオラつき精神は意外と大事なのかも知れない。少なくとも見た目のオラつきがマイナスに働くことは無いだろうし、なにしろナメられたら終わりの世界である。もはや巨人ファンさえヒットを打つとは期待していない中島宏之が謎の威圧感で四球をもぎ取るのも、全身から醸し出すヤンキーオーラによるものではないかと私は見ている。

 それでは、我らが中日はどうだろうか。ひと昔、ふた昔前までは立浪和義、山崎武司を筆頭に、森野将彦、愛甲猛、大西崇之、挙げ句の果てには藤王康晴までヤンチャと言うにはあまりにも凶暴な面々が顔を並べる球界屈指のアウトロー球団だったが、今やその辺のサラリーマンよりも真面目そうな選手がちらほらいて、前選手会長の福田永将などはむしろもっとオラついてくれよと頼みたくなるほどだ。

 だが一人、あきらかに顔つきからして昔のヤンキーっぽさが漂う選手がいる。キャプテン高橋周平である。聞くところによれば、趣味はパチンコ。某女子アナの件で夜遊び好きな一面も発覚した。いつもしかめっ面で、なんとなくふて腐れたような態度はまさしくヤンキー。野球に出会っていなければ、間違いなく授業をふけて屋上で時間を潰していたタイプだ。

 だから私は、もっと高橋は大成するはずだと確信している。プロ8年目の今季は不注意による離脱こそあったもののようやくその才能を本格的に開花させ、今日おこなわれた契約更改では2千5百万アップの6千万円でサインしたそうだ。中日で唯一ともいえるヤンキー主義の継承者は、来季いよいよ1億円の大台を見据えた戦いに挑む。

 町でヤンキーに遭遇しなくなったのも、暴走族がいなくなったのも、ただただ嬉しい限りである。だがプロ野球のグラウンドには、一人くらいこういう選手がいたって悪くない。