歓喜の世界一から一夜明け、寝起きの中日ファンの目に飛び込んできたのは、眠気が吹き飛ぶようなビッグニュースだった。
他方では山口俊のポスティングでのメジャー移籍、鈴木大地の楽天移籍など、本格的にストーブリーグに突入した球界は激動の朝を迎えた。
スポーツ新聞各紙がプレミア12絡みの話題を一面に据えるなか、我らが中日スポーツだけは違っていた。
「アロンゾ・パウエル氏をコーチに招聘」
思わず二度見したのは私だけではないだろう。一旦は川又米利氏の打撃コーチ就任が報道されたものの、16日放送の「スポ音」(CBCラジオ)で若狭アナが否定。あまりに発表が遅れていることから様々な憶測が飛び交ったが、これが理由なら仕方ない。
なんといってもパウエル氏は今年までサンフランシスコ・ジャイアンツで打撃コーチを務めた現役バリバリのメジャーのコーチなのだ。
記事によれば現役時代のチームメイトであり、今なお親交が続いている与田が昨オフの監督就任時にオファー。このときはジャイアンツとの契約が残っていたため叶わなかったが、契約が満了を迎えたこのタイミングで再度招聘し、快諾を得たのだという。
1988年のフロリダキャンプでドジャースのトミー・ラソーダ監督が中日ナインの指導にあたった事はあるものの、正式にコーチとしてメジャー関係者を迎え入れるのは球団史上初。しかも世界一経験者の“引き抜き”となれば、球団史に残る快挙といえよう。
「OBを誘っても断られて困ってる」という東スポのネガティヴ記事は誤報だったわけだ
中日を小馬鹿にして喜ぶ連中にひと泡吹かせたのは気持ちいいね。ふははは
22年前の寂しい退団
パウエル氏の名が中スポの一面を飾るのは1997年9月24日以来、実に22年ぶりのこと。
この日の見出しは「パウエル 不発」。2度の好機でいずれも凡退に終わり、バットを振り上げて悔しがる背番号30からは悲壮感が伝わってくる(余談だが、前日22日の阪神戦は立浪和義がナゴヤドーム初のサイクル安打を達成した試合である)。
3年連続首位打者に輝いた安打製造機がこの年は大不振に陥った。夏場を迎えるとスタメンを外れることも増え、この日も4試合ぶりのスタメン復帰だった。
このあと二度と中スポ一面に登場することなく自由契約となり、阪神に移籍。残した実績に比して寂しい幕切れとなった。
パウエルに期待すること
そのパウエルが、22年の時を経て中日のユニフォームに再び袖を通す。与田もパウエル氏も一度は中日を離れた男達ではあるが、何十年も経ってから再び同じユニフォームを着ることになるのだから運命とは不思議なものだ。
ひとつの球団を応援し続けるのには大きな苦が伴うが、ダイナミックな時間軸の中で今回のようなカタルシスを得られるのが醍醐味でもある。これだから野球観戦はやめられないのだ。
話を戻そう。パウエル氏に期待することは主に2つ。
1つ目は言うまでもなく打撃技術の向上。世界最高峰の舞台で培った最新の打撃理論は、若手の多い中日において目覚ましい効果を発揮するはずだ。
噂どおりホームランテラスが設置されれば、“パウエル理論”との相乗効果で強竜打線の復活も見られるかもしれない。
2つ目は外国人の新たな獲得ルートの開拓。懇意にしているドミニカ、キューバに比べ、米国ルートは大塚晶文が派遣されているものの、なかなか目立った成果は表れていない。
ここに長年、現場に携わり、人脈も広いであろうパウエル氏による、いわば“パウエル・ルート”が加われば、従来とは異なるタイプの選手が獲得できるばかりか、他球団には無いネットワークで掘り出し物を斡旋なんてことも可能になるかもしれない。
心配なアストロズのサイン盗み疑惑
ただ、正式な就任発表がおこなわれるまでは夢を見るのも程々にしておいた方が賢明かもしれない。
パウエル氏が2016年から2年間に渡って打撃コーチ補佐を務め、その間ワールドシリーズチャンピオンにも輝いたヒューストン・アストロズに組織的なサイン盗み疑惑が浮上、問題化しているのだ。
ちょうどサイン盗みを行なっていた時期とパウエル氏の在籍時期が被るため、今後の展開次第ではパウエル氏にも疑惑の目が向けられても不思議ではない。
高潔なパウエル氏に限って滅多なことはないとは思うが、正式な発表までは少し心配しながら事態の進展を見守ろうと思う。
【参考資料】
中日スポーツ 1997年8月24日付