ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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小さいこともいいことだ

◯6-0(63勝69敗2分)

 

東京五輪の成功から間もない昭和42年、森永製菓はこの年の目玉商品として「エールチョコレート」の発売を決定。商品コンセプトである「従来の板チョコよりもひと回り大きくて値段は50円のお徳用」をいかにしてインパクトある言葉で伝えるか。議論を重ねた末に完成したキャッチコピーこそが、かの有名な「大きいことはいいことだ!」だ。

このとき日本は高度経済成長の真っ只中。それまでこの国では慎ましやかな幸せが美徳とされてきたが、急速な発展を遂げて経済大国の仲間入りを果たしたこの時代、日本人も堂々と胸を張って大きな夢を見ようではないかという社会の空気感とマッチし、たちまちこのキャッチコピーは人気を博して流行語となったのであった。(参考・森永製菓ホームページhttps://www.morinaga.co.jp/museum/history/show03/index.html

 

大きいことがいいこととされているのはプロ野球の世界も同じだ。特に近年はダルビッシュ有、大谷翔平など高身長選手の活躍によりその傾向が強くなっていて、なんと現役で190センチを超す選手は日本人だけでも33人、外国人を含めれば49人も在籍している。

アマチュア選手を評価するうえでも身長は重要な要素となる。森友哉、今宮健太といった別格は置いておくとして、やはり170センチ前後ではそれ自体が大きなハンデと捉えられ、才能はあっても身長がネックとなりプロ指名に至らなかった元プロ候補生は数知れず。

少なくとも低身長が有利に働くことはほぼ無いプロ野球の世界において、167センチという一般の成人男性と比較しても小柄の部類に入る投手が、自分よりも何十センチも背の高い大男たちを相手に快刀乱麻を断つ活躍を続けている。

背番号59、山本拓実。この小さな19歳が後半戦のローテの一角を守って3勝をあげようとはいったい誰が想像できただろうか。

 

低身長、右腕、先発の三重苦

 

投手で170センチ未満といえば同じ167センチの石川雅規(ヤクルト)、そして谷元圭介が有名だが、石川はサウスポーで、谷元はリリーバーだ。山本のように右腕の先発タイプとなると、まともに戦力として機能しているのは楽天の美馬学くらいしか見当たらない。

低身長に加えて右腕で、それも先発という三重苦と戦わなければならない山本の持ち味は、小さな体を目一杯使って投げる最速147キロのストレートだ。

今日の試合も全103球のうち半数以上の58球がストレート。しかも58球すべてが140キロを上回っており、安定感に加えて7イニング目に入っても体力に問題がないことを証明してみせた。

そこに110キロ台のカーブ、120キロ台の縦スラ、130キロ台のチェンジアップをちりばめてくるわけだから、そう簡単に打てないのも無理はない。

 

「大きいことはいいことだ!」が合言葉のように享受された時代も今は昔、人口減少に伴う経済衰退が予測されるこれからの日本では「小さいこともいいことだ」というマインドが大事になってくる気がする。そんな時代に現れた167センチの右腕は2020年代をどう駆け抜けるだろうか。

小さなエース候補が描く壮大な物語はまだ始まったばかりだ。