ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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瞬殺

●1-8(22勝27敗)

 

 まるでメトロノームのように規則正しく1ボールからの2球目を3者連続で単打にされて満塁のピンチを背負うと、4番ロペスがまたしても2球目を捉えた当たりは、まだ観客もまばらなライトスタンドへと吸い込まれいった。

 そのとき、時計は18時07分を指していた。出会って2秒でなんたら……ではなく開始7分、わずか8球で4失点。細かい記録は調べようがないが、おそらく長いドラゴンズの歴史でも最速、最少の“瞬殺”記録ではないだろうか。

 勝野には打者を自分のペースに引き込む独特の間合いがあり、三菱重工時代の監督はこれを「勝野タイム」と呼んでいたそうだ。前回登板時は藤川球児を思わせるこの長い間合いがヤクルト打線を翻弄してプロ初勝利を飾ったわけだが、残念ながら今日は持ち味をみせる余裕さえないまま、あれよあれよと打ち込まれた。

 降板後、勝野は「自分のペースにできず、その後も修正できませんでした」と短い談話を出した。その通りだろう。7分間という短すぎる時間に起きた悲劇は、しかし今後何年と続いていく勝野の野球人生において確かな糧になるはずだ。この悔しさは必ず勝野を強くする。少しばかり動揺はしたが、この満塁被弾は将来への投資だと前向きに捉えたい。

 

避けられたかもしれない満塁弾

 

 結果は悲観しないが、反省する必要はある。果たしてあの満塁弾は避ける事ができなかったのか。惜しむらくは内野陣、そして捕手が勝野のもとに歩み寄ったタイミングが遅すぎた事だ。

 経験の乏しいルーキーが連打を浴びてテンポが崩れている。ならばせめて一、二塁で冷静さを取り戻してやれば、筒香との対戦は本来の間合いで投げられたのではないだろうか。ところがチームメイトが勝野に声をかけたのは満塁になってからだった。これでは焼け石に水。2回以降の失点は動揺から立ち直れなかった勝野自身の責任だが、初回の悲劇は、特に女房役の加藤の機転で防げたように思えてならない。

 勝野が「勝野タイム」を作れずに戸惑っているなら、それを意図的に作らせるのが捕手の役割だ。そういう意味であの満塁弾は加藤にとっても大きな勉強となった事だろう。

 

加藤を代えた意味

 

 その加藤は4回で交代を命じられ、代わりに出てきたのは今季初マスクの武山だった。はっきり言えばファンからの期待値は低く、3年後を見据えたチーム作りを行う上でも今季限りでお役御免になる可能性が高いと言われている選手だ。

 武山が出てくるとSNSでは「なぜ加藤を代えるんだ」と多くのファンが不満をあらわにした。もし出てきたのが石橋ならこんな声もあがらないのだろうが、未来のない敗戦処理的な捕手を出すくらいなら加藤を最後まで使って経験を積ませるべきだというのも心情的には理解できる。ただ、加藤も実質一年目のペーペー同然の選手だ。勝野の炎上に対して少なからず責任を感じているだろうし、グロッキーな状態で出場し続けることが必ずしも成長に結びつくとも思えない。

 大量失点を喫した投手の続投を「晒し投げ」と揶揄するように、捕手だって闇雲に経験を積むだけが成長ではないはずだ。野球選手である前に生身の労働者である以上、さっさと逃げてリフレッシュしたい夜だってある。最近は選手の途中交代をやたらと“懲罰”と表現するが、むしろ下がって頭を冷やしとけという首脳陣からの“情”だと感じるのは私自身がうら寂れた労働者のひとりだからだろうか。