ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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勝者のメンタリティ〜松田宣浩構想外の衝撃

 慌ただしい朝だった。と言っても私自身のことではなく、スポーツ紙面上の話だ。まず飛び込んできたのはヤクルト・内川聖一、嶋基宏の現役引退を伝える記事だった。2010年代を代表する両プレーヤーの引退に、時代の移り変わりを感じずにはいられない。続いて目を引いたのが阪神・藤浪晋太郎のメジャー挑戦。新監督の内定が報じられたばかりだと言うのに、果たして球団はポスティングを容認するのだろうか?

 だが、一番のサプライズはその次だ。

「ソフトバンク・松田宣浩 構想外れる」ーー。

 目を疑い、二度見した。松田といえば常勝ホークスの象徴ともいえる存在。巨人における坂本勇人、西武における栗山巧のようなスペシャルな選手として、ユニフォームを脱ぐときは盛大なセレモニーで花道を飾り、そのまま首脳陣入りするのが既定路線だと思われていた。そのあとはホークス監督就任までが “約束された未来” だったはずだ。

 その松田が引退ではなく構想外。SNSにあふれるホークスファンの悲嘆に暮れた声が衝撃の大きさを物語る。松田は夕方会見をおこない、今後はNPBで現役続行を模索する旨を表明した。

 来季40歳を迎える大ベテランだが、異例の争奪戦になることが予想される。戦力としてはもちろん、野球への取り組み方、ベンチを鼓舞する熱意。それに加えて常勝ホークスの勝者メンタリティが骨の髄まで染み込んだ松田の加入は、チームの在り方そのものを変える可能性さえ秘めている。その点で年齢はまったく問題にはならず、各球団が続々と名乗りを挙げるのは間違いないだろう。

 決め手になるのが年俸なのか、立地なのか、熱意なのか。いずれにせよドラゴンズは今すぐにでも獲得に動くべきだ。岐阜・中京高校出身と地縁はあり、立浪監督とも2013年の第3回WBCにおいてコーチと選手という間柄で同じユニフォームを着た経歴がある。何よりも、10シーズンで9度のBクラスと低迷を極めるチームに松田の放つバイタリティは強い刺激になるはずだ。

 伝説の名マネージャーとして知られる根本陸夫は、渡り歩いた広島、西武、ダイエーをそれぞれ同じ手法で常勝軍団に仕立て上げた。広島では山内一弘を、西武では最晩年の野村克也、田淵幸一、山崎裕之を、ダイエーでは秋山幸二、工藤公康を……。つまり勝者メンタリティを持つベテランを加入させることで、弱小チームを意識レベルから変革し、立て直したのだ。岡林勇希、土田龍空、高橋宏斗のような覇気のある若手が多いドラゴンズにおいても、この方法は効果を発揮するのではないだろうか。それが “熱男” であれば尚のことである。

 過去にも河原純一、佐伯貴弘、小笠原道大(FA移籍)、多村仁、松坂大輔、福留孝介と他球団を何らかの事情で退団したベテラン選手を受け入れてきた実績から、今回もドラゴンズが “マッチ獲り” に動く可能性は十分あり得るだろう。戦力としても石川昂弥の復帰が不透明とされる中で、三塁手の補強は理に適っている。

 獲りに行かない理由がないと個人的には思うのだが、腰の重さには定評のある中日球団はどう動くのか。ひと足早く始まったストーブリーグの動静を注視したい。

来季は “意外性の男” から真のローテ入り

 ○1-0DeNA(23回戦:横浜スタジアム)

 昨夜の敗北により今季のBクラスが確定。事実上の消化試合に突入したわけだが、大島洋平の打率、岡林の最多安打、ジャリエルのHP、ライデルのセーブとタイトル争いは佳境を迎え、いい意味での緊張感が持続している。

 しかし緊張感をもって臨んでいるのは彼らだけではない。2回途中、先発・柳裕也の危険球退場で緊急登板を余儀なくされた鈴木博志にとっては、来季へのアピールという意味でも非常に大事なマウンドとなった……。とはいえ準備らしい準備をしているはずもなく、難しい登板だったはずだ。

 ところが鈴木という投手はどうにも読めない。むしろダメ元の方が好結果を残すと言ったら失礼かもしれないが、猛打のDeNA打線を4.2回1安打シャットアウト。交流戦で山本由伸に投げ勝った男がまたしても快投乱麻をやってのけたわけだ。それも6三振のおまけ付き。まるで同じ “鈴木” でも鈴木啓示が投げているかのような錯覚すら覚えるほどであった。こんな投球を見せられたら、来季のローテ入りに期待せざるを得ないではないか。

 プロの世界は「たまたま」で抑えられるほど甘くはない。意外なナイスピッチングが1シーズンに二度出た時点で、それは「たまたま」ではなく必然ということになる。元々ドライチのポテンシャルを秘めた投手なのだ。このくらいは想定外でもなんでもなく、実力通りと言えるのかもしれない。ただ、今はまだ安定して実力を発揮できないだけ。

 “意外性の男” ではなく、真のローテ入りへ。鈴木博志の2023年は既に始まっている。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter