ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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奥の細道

●3-5広島(22回戦)

 長かった9連戦が終わった。敵地広島での初戦を大逆転負けで落とした時は、先が思いやられたが、気が付いたら5連勝。昨年同様、“反撃の秋” になりつつある。

 本日も序盤から主導権を握る横綱相撲で6連勝を飾り、大型連戦を締めくくるはずだった。ところがどっこい、そうそう都合よく事は運ばない。伏兵・正随優弥の打球はあっという間にレフトスタンドへ到達。3番手・福敬登は1球に泣いた。

浦島太郎にはならないで

 本日のトピックは何といっても先発・笠原祥太郎だ。昨シーズンは一軍登板なしに終わり、今シーズンも開幕から二軍暮らし。先発の駒が足りなくなるこの時期にやっとお声がかかる格好となった。

 ところが久々の一軍登板は、初回から苦しいものとなってしまう。持ち球のストレート、チェンジアップ共に制御できずにいた。狙ったところにボールがいかないが故に、球数もかさんでしまい、初回から25球も費やしていた。それでもスコアボードに刻まれた数字は “0”。内容云々ではない。背番号47にとって、無失点でイニングを終わらせることが何よりの良薬だった。気が付いたらたこ焼きが4つ。最後に爪楊枝が一本ついてしまったものの、勝ち投手の権利を得てマウンドを降りた。

 病気や怪我の影響で本来の投球ができずにいた左腕は、ようやくスタートラインに立つことができた。2018年には6勝をマーク、侍ジャパンにも選出されて飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃とはチームの状況も一変している。

 当時不振にあえいでいた大野雄大は大エースとして蘇り、伸び悩み気味だった小笠原慎之介はローテーション投手として本格化の兆しを見せている。そして、同期入団の柳裕也とは完全に立場が逆転してしまった。だからといって、このまま尻すぼみになるわけにはいかない。もがき続けた108球の中にも、復調のきっかけとなり得る球はあった。

基本は真っすぐ

 3回表の2死一、三塁で4番・鈴木誠也に対して投じた4球目がそれだ。チェンジアップを3球続けた後にファウルを打たせた142キロのストレートには、笠原の投球において最も重要な要素が詰まっていた。

 スピードボール全盛時代において、5年目左腕の特徴は球が速くないことにある。実際本日の球速は140キロ前後がほとんど。しかしながら、その代わりに110キロ台のボールで緩急を付けることでストレートを生かしてきた。

 一打逆転の好機に、リーグ屈指の強打者はチェンジアップに意識があったと思われる。だが、平行カウントに整えたことで、尚更決め球の内角高めのストレートが効果を発揮した。直前のストレートが失投となっていたら、手痛い一打を浴びていただろう。ボールになってしまったら、今度は投げるボールがなくなってしまっていた。いずれにしろ、より早い段階で逆転を許していたに違いない。

 この打席は結果的に鈴木をショートゴロに打ち取った。仮にチェンジアップに依存した投球だったらと考えるとゾッとする。ドラゴンズが誇るレジェンド・権藤博はこの魔球を、「効き目がありすぎるから効かなくなる」、「チェンジアップは劇薬」と称している。この金言は笠原にも当てはまるものだ。

 チェンジアップは投球に奥行きを加えてくれる。一方でストレートを追求しなければピッチングに奥深さは出てこない。プロ野球界で生き残っていけるか否か。分岐点に立たされた2019年の開幕投手は、真っ向からこの難問に立ち向かうことになる。

(k-yad)