ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ほこ×たて

●1-10DeNA(3回戦)

 「打線は水もの」

 数ある野球に関する格言のなかでも、最も身近で分かり味が深いものがこれだと思う。長いシーズン、どんなチームでも必ず貧打にあえぐ時期はある。何試合タイムリー無しとか、何イニング無得点とか、プロ野球を追いかけていればしょっちゅう聞くフレーズだ。

 この3試合、ドラゴンズはものの見事にこの“沼”にはまってしまった。おとといが11安打無得点で、昨日が10安打2得点。ヒットは出ているから心配ないよなんて気休めを言っていたら、最後はヒットすら出なくなって完敗。ショックは大きいが、今まで数えきれないほど喰らった覚えのあるお馴染みのパターンだ。

 ではどうすれば沼から這い上がれるのか。答えは簡単で、ただ耐えるのみ、これに尽きる。それが明日になるのか、あさってになるのか。あるいはトンネルの出口はまだ見えてすらいないのか。誰にも知る由はないが、いつか必ずウソのように打ち始める日が来るはずだ。今はただその時を静かに待とうではないか。

 如何なる名刀をしても水の流れを斬る術はなし。ならば泰然自若として流れが変わるのを待つのみ。とか言って悟りの境地に達したようなことをホザいているが、明日の先発・大瀬良大地に早くも足の震えが止まらないのはここだけの話。

 

やっぱり郡司たまらん

 

 こんな試合でも見どころは十分あった。岡野祐一郎、橋本侑樹のほろ苦ルーキーリレー。そして遂にベールを脱いだ、郡司裕也の初スタメンマスクである。

 途中交代もなく1試合を丸々完走。しかし10失点を喫した以上、伊東勤コーチからキツいお灸を据えられるのは避けられそうにない。

 ただ、注目すべきはバッティングだ。六大学三冠王の称号を引っ提げてプロの門を叩いた、いわゆる“打てる捕手”の郡司だが、オープン戦や練習試合を通して目立ったのは、むしろ類まれなる選球眼と粘りの技術だった。それが指標的にいかに優れているのかは今月4日の記事にも書いた通りなので、そちらをご参照いただきたい。

 

www.chunichi-wo-kangaeru.com

 

 あの近藤健介をも凌ぐ素質を果たして公式戦でも発揮できるのか。結果は次の通りだ。

 

1打席目・三振 5球

2打席目・三振 5球

3打席目・三振 9球

4打席目・一飛 5球

 

 とにかく球数だけに注目していた私にとっては、一言で表せば「たまらん」結果になった。たしかに3打席連続三振はお世辞にも褒められたものではないが、言い換えればこんな結果であっても安定して5球以上を投げさせたわけだ。

 投手にとって、簡単に凡退してくれない打者ほど面倒なものはない。しかも下位打線でこれをやられたら堪らない。今はまだ郡司に甘い球を打ち返す技術が備わっていないが、ゆくゆくは打って粘れるイヤらしい打者になるビジョンがはっきりと見えた。それだけでも今日は収穫があったといえよう。

 

郡司と戸柱のほこ×たて

 

 さて、その郡司の3打席目、密かにゲキ渋な騙し合いが繰り広げられていたことにお気付きだろうか。

 この打席の見逃し三振は、8球粘った末の9球目、外角低めのストレートを見極めたうえでストライク判定されたものだった。スロー映像で確認すると、際どいコースながらややボール寄りにも見える。おそらく郡司の目にはもっとはっきりとボールゾーンを横切る白い影が見えていたに違いない。

 厳密にいえば誤審だが、ここで問題になるのが捕手・戸柱恭孝の存在だ。戸柱といえば球界でも屈指のフレーミング名人として知られる。フレーミングとは「捕手がストライクゾーンぎりぎりのボール球を、球審にストライクとコールさせる技術」のこと(Full-Count)。戸柱はこの部門で2016、17年に2年続けてNPB最高値を叩き出している。

 エース今永昇太も「審判がストライクをコールすることが多いのですごく助けてもらっています。自分の中でボールと思っていた球がストライクと言われると気分的に楽になります」とそのフレーミングに絶大なる信頼を寄せており、今年の春季キャンプでは研修におとずれていたMLB傘下の関係者が「(他の捕手と比べて)一人だけ違う」と絶賛したほど。戸柱がマスクを被っているときは、際どいボールは基本ストライクになると覚悟すべきだろう。

 つまりこの打席は「ぜったいにストライクに見せる戸柱」と「ぜったいにボールを見極める郡司」による球界屈指の“ほこ×たて”が火花を散らしたことになる。結果は粘って9球目、まさに互いの持ち味の見せ場ともいえる、ベースすれすれの際どいコースをストライク判定させた戸柱の勝ち。

 だが「郡司の選球眼はスゴイらしい」という印象を植え付けていけば、今後はボール判定を勝ち取れる場面もでてくるかも知れない。戸柱と郡司。ごく一部のファンしか注目しないであろう隠れた名勝負の第1ラウンド、とくと楽しませてもらった。

 

【参考資料・引用】

・ベースボールチャンネル

「CS争いの舵取り役・DeNA戸柱は隠れた新人王候補。数字以上に優れた特異な“捕手力”」

・カナロコ

「戸柱の捕球技術、大リーグ関係者ら絶賛」