ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

ある日のドラゴンズ①川上、屈辱のプロ入り最短KO

 日常から野球が消えて早数週間。本来なら一喜一憂に身悶えつつも幸せな日々を過ごしているはずの春なのに、社会は“緊急事態宣言”だの“首都封鎖”だの物騒な言葉で埋め尽くされてしまった。いつ終わるとも知れない未知なる敵との戦いにいい加減うんざりしている方も少なくないだろう。

 そんな野球ファンの渇求を受けて、NHK-BSでは「あの試合をもう一度! スポーツ名勝負」と銘打った過去の名試合を再放送。2013年楽天の日本一、2007年中日の完全試合V、2016年広島の25年ぶりV、の3試合をノーカットで放送した。

 野球なき生活の味気なさをなんとか埋めようとしてくれたNHKの心意気には感謝したいし、確かにどれも球史に残る文句なしの名試合ではある。

 だが、違う。そうじゃない。私が求めているのは、なんの変哲もない“日常”なのだ。この3試合は、いわば“晴れの試合”だ。正装に着替え、試合開始を座して待つような特別な試合--。そうではなく、今はなんの印象にも残らない、140数試合の中の1試合が見たくてたまらない。

 というわけで当ブログでは、少しでも読者の皆様に“日常”を感じて頂きたく、過去の中日ドラゴンズの試合の中からランダムにピックアップした1試合に焦点を当てて振り返ってみたいと思う。

 題して「ある日のドラゴンズ」。誰も憶えていない、なんなら選手本人も憶えていないような、メモリアルでもなんでもない「ある日」の試合を通して、平和の尊さを噛みしめようではないか。

 

 

1999年7月20日 vs巨人16回戦

 

f:id:chunichi-wo-kangaeru:20200406204527j:plain

 その日、川上憲伸は立ち上がりから明らかに精彩を欠いていた。制球が定まらず、変化球は本塁手前でワンバウンド。初回、1死二塁から浴びた松井秀喜の特大2ランも目が覚めるキッカケにはならず、ますますドツボに陥るだけだった。

 山田久志投手コーチは「調子が悪いということばかりに気を取られてたみたいだな。おかしい、おかしいと思っているうちに、にっちもさっちもいかなくなった」と川上の投球を分析した。

 川上の動揺がよく表れていたのが5番高橋由伸との対戦だ。言わずと知れたライバル関係の2人だが、前年は22打数1安打に抑えた、いわばカモ。それだけではない。なんとここまで通算32打席、川上は高橋由に対してひとつの四球も出してこなかった。

 この日のライバル対決は松井に本塁打を許したあと、初回1死二塁の場面でおとずれた。カウント2-1と簡単に追い込んだ川上だったが、ここから3球続けてワンバウンドを投げ、33打席目にして初の四球を与えてしまう。続投した2回も2死から四球を挟む4連打で3失点を喫し、結局2回5失点で降板。アクシデントを除けばプロ入り最短となる屈辱のKOだった。

 この年の川上は春先から調子があがらず、6月にはリリーフに回っての再調整を余儀なくされていた。しかし同月23日の巨人戦で久々の先発白星を挙げると、30日の阪神では完封。さらにその後も2試合負けなしと完全復活を感じさせる投球が続いていた。だから、星野監督も愛弟子の乱調には首を傾げるしかなかった。

 「どうしたんやろう。あれだけストライクが入らんではケンカにならんな」

 川上は降板後、「3連戦初戦を勝てなかったのが一番悔しい」と唇をかんだ。これで前半戦の役目はおしまい。昨年14勝を挙げて新人王にも輝いたエースだが、今年は5勝3敗防御率4.11という不甲斐ない成績で折り返しを迎えた。当然オールスターにも落選。それでもチームは首位ターンが確定している。悩んでいる暇はない。再び輝きを取り戻すべく、後半戦に向けて鍛錬あるのみだ。

 

2年目のジンクスに陥った憲伸

 

 それから10日後、後半戦の再開ゲームの先発を任された川上は7回1失点の好投(星付かず)で優勝に邁進するチームに勢いを付けたが、それ以降は勝ったり負けたりの繰り返しで最後までピリッとしないままシーズンを終えた。最終成績8勝9敗防御率4.44では頼りない。特にシーズン最終登板になった10月2日の横浜戦では7回14失点の大大炎上で防御率を大きく落としたのが痛かった(戦前の防御率は3.83)。

 最近はあまり聞かなくなったが、川上はいわゆる“2年目のジンクス”に陥ったのだと評論家たちは指摘した。一方で、この年の高橋由は3割30ホーマーを達成する大活躍。昨年は圧勝したライバル対決だったが、2年目はぐうの音も出ない完敗を喫した。33打席目で許した四球も、ひょっとしたら自分よりも進化したライバルに対しての恐怖心が手元を狂わせたのかもしれない。

 

 以上、新企画1回目は1999年の「ある日」を振り返った。いつまで続くか分からないが、たまたま思いついた日付にタイムスリップしてみるのも案外楽しいものだ。それではまた、ある日どこかで。