ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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“ドニキ”堂上剛裕に勇気をもらった話

 “サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ 二日酔いでも 寝ぼけていても タイムレコーダー ガチャンと押せば どうにか格好がつくものさ”

 

 これは高度経済成長期の真っ只中の1962年に、「名古屋嫁入り物語」の頑固オヤジ役でもお馴染みの故・植木等が歌った「ドント節」の一節である。作詞は後に東京都知事になる青島幸男。

 ちなみに1962年というのは中日でいえば濃人監督が森徹、井上登ら生え抜きの人気選手を多数放出したことで地元ファンからそっぽを向かれ、貯金10の3位という成績にも関わらずシーズン直後に突如解任された年である。「中日ドラゴンズ40年史」(中日新聞社・絶版)によると「このころ、中日球場の客足もめっきり減り、試合が始まると、スタンドから濃人監督が猛烈にヤジられる日が続いた。歴代監督のなかで、地元ファンから、これほどの攻撃を受けた例を知らないと記載されているほどだから、その不人気ぶりは相当なものだったのだろう。

 

 この時期のドラゴンズについて掘り下げるのはまたの機会に譲るとして、冒頭で紹介した歌詞の内容は現代人には違和感しかないはずだ。サラリーマンといえば“社畜”という言葉が表すように苦役の担い手であり、サラリーマン生活からの脱出を意識したことがないサラリーマンなどほとんど皆無であろう。

 だが、当時は“気楽な稼業”だったのだ。もちろん出世争いやらパワハラやら、日々の面倒は今以上に熾烈なものがあったにせよ、とりあえず我慢すれば年功序列、右肩上がりの給与制度に加えて、今となってはファンタジーとも言うべき預貯金の超高金利にも助けられ、60歳の定年まで無事にやり過ごせば人生あがったも同然、あとは退職金と年金で悠々自適のサンデー毎日。そんな夢のようなレールに誰もが乗るチャンスを得られたのが高度経済成長期の日本だった。

 

そして神話は終焉を迎えた

 

 ところが約60年経った今日、もはやサラリーマンの利点は何も残っちゃいない。挙げ句の果てには日銀総裁が終身雇用の終焉を宣言する有様だ。要は同じ会社でのうのうと定年までを過ごす“神話”のような人生プランは通用しないのだ。自分たちはそういう時代の旨味を散々しゃぶり尽くしたくせに……とついつい恨み言のひとつも吐きたくなるが、一方では己のスキル一本で莫大な稼ぎを掴み取る時代の到来だ!と、インフルエンサーが声高に叫び、SNSでは現金プレゼントのリツイートが毎日のように流れてくる。品性もクソもあったもんじゃない。だけど品性じゃ食っていけない。んなこと分かっちゃいるけど、30代も半ばになって今さら新しい世界にチャレンジする勇気なんか持てねえよなーと途方に暮れながら、鼻に付くライフハック系の動画を眺めて暇を潰すヘタれサラリーマンは私だけではないだろう。

 30代というのは、自分の人生の輪郭がはっきりと見えてくる頃だ。20代はまだワンチャン狙って冒険もできる時期。されど30代は冒険する勇気も失せれば、悲しいかな需要も激減してしまう。転職市場で30代は、もう完全に即戦力採用だ。1年目から10勝ないし3割打てなければ切られる立場。よほどの自信と覚悟がなければ、なかなか飛び込めない。だが飛び込まなければ、超実力主義の荒波に飲まれて溺死する運命が待つのみ。

 そんな葛藤のなかで届いたのが、このニュースだ。

 

堂上剛裕、営業本部に配属

 

www.chunichi.co.jp

 中日OBの堂上剛裕さん(34)が、1日付で営業本部イベント推進部の一員として球団スタッフに加わり、この日から始動。2014年まで中日に在籍、15年に巨人へ移籍、17年に現役引退後は巨人のスカウト、コーチを務めた堂上さんは、6年ぶりに古巣復帰となる。

20.1.7 中日スポーツ「ドラニュース」より

 

 小さい頃から野球一筋に生きてきた堂上剛裕が、34歳にして全くの異職種である営業本部イベント推進部の一員として働くそうだ。最初のうちは慣れない環境で大変なこともあると思うが、それを覚悟のうえでサラリーマンとしての道を選んだドニキの姿には、同年代として勝手に共感するものがある。ドニキも頑張ってんだからオレも頑張んなくちゃな、なんてしみたれった演歌みたいな台詞が出てくるのも30代の哀愁がなせる技か。

 昔はグラウンドで輝くプロ野球選手にこそ夢と憧れを抱いてきたが、いつのまにか第二の人生を歩む“一社会人”としての元プロ野球選手に肩入れをするようになっていた。堂上にしても18歳のルーキー時代から見てきた選手で、その堂上が回り道を経て新しい人生を歩き出すのだから応援しないわけにはいくまい。そして新鮮なスーツ姿の堂上を見ていると、ふと社会人になりたてだった10数年前の初心が戻ってくるような感覚に襲われた。サラリーマンは気楽じゃないけど、やさぐれていても仕方がないよな。ありがとう、ドニキ。明日からはドニキを見習って、もうちょい真面目に仕事に取り組んでみるよ。

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