ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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その魔球、チェンジアップ

◯4-2(42勝51敗)

 

“杉内さんのチェンジアップは2回空振りできる”

かつて長野久義は杉内俊哉の代名詞・チェンジアップをこう評したことがある。ストレートと同じ腕の振りから投じられる20キロ以上遅いボールは打者から見れば失速しているように感じられ、特にストレート待ちの打者が一度スイングを始めれば、その緩急差に対応するのは至難の業といえよう。

その中でも杉内はストレートと全く同じフォーム、腕の振りからチェンジアップを投げ分けることができ、さらに縦へ大きく沈む軌道は単にタイミングをずらすだけでなく、狙って空振りが取れる決め球として威力を発揮した。チェンジアップが強力であればあるほどストレートも実際以上の速さを感じさせることができ、杉内の場合はさらにキレ味抜群のスライダーも持っていたのだから手のつけようがない。身長も低く、球速もせいぜい140キロ前後しか出なかった杉内が歴代1位の奪三振率(1500投球回以上)を記録できたのも納得である。

 

ところで今日の先発・笠原祥太郎もチェンジアップを武器とする投手だ。以前このブログで笠原の朴訥な見た目や性格、そして背番号47のサウスポーという共通点から「野口茂樹と被る」と書いたことがあったが、マウンド上の笠原は野口とは似ても似つかない。どちらかといえば笠原が目指すべきは、やはりソフトバンクで47を背負った杉内であるべきだろう。

 

チェンジアップを駆使しての復活星

 

笠原の今日の投球で強烈に印象に残った一球がある。2回表の宮崎敏郎への2球目だ。初球に膝元へのストレート(138キロ)でファウルを打たせたあとの2球目、笠原はあろうことかど真ん中にチェンジアップを投じた。宮崎ほどの打者ならたちまちスタンドインしてもおかしくないような甘い球だ。投げた瞬間に目を覆いたくなるほどのチャンスボールに見えたが、意外にも宮崎はこれを空振りしてしまう。いや、違う。あまりにも甘くて逆に気負って空振りすることはよくあるが、このボールに対する宮崎の空振りは、明らかにタイミングを外されたときのそれだった。

おそらく宮崎としても「来た!」と思ってスイングを始めたはいいが、予想外になかなか「来てくれなかった」のだろう。あらためて映像を振り返るとこの時の宮崎は渾身のフルスイングをしており、空振りをした際にはあっけに取られた表情を浮かべていた。これを見て思い出したのが、冒頭の長野の言葉だ。

 

笠原の場合はスライダーではなく緩いカーブでカウントを稼ぐため本質的には杉内とは異なるタイプではあるのだが、ストレートとチェンジアップのコンビネーションが生命線という点では共通している。ちなみに6回表、大ピンチでロペスを併殺に打ち取ったのも、やはり初球にストレートを見せたあとのチェンジアップだった。

不慮の病気で一度は新潟での再就職も考えたという2019年の開幕投手が、「2回空振りできるチェンジアップ」を駆使して連敗を8で止め、自身も久々となる3勝目をあげた。